中学生でもわかる変動損失の仕組み【流動性マイニング】
変動損失は計算が複雑な仕組みだと思っていませんか?
しかし、実は一次方程式と連立方程式の知識だけで理解できます。
今回は流動性マイニングにおける変動損失の仕組みを、中学生でもわかるように解説します。
「50%の値動きで2%の損失」
これを丸暗記でなく、きちんと計算で導けるようになります。
変動損失を計算できればリスクを正確に見積もれるようになるので、銘柄選びの精度が上がるでしょう。
変動損失の意味をおさらい
まずは変動損失の定義をおさらいしましょう。
すでに理解している人は読み飛ばして大丈夫です。
変動損失(Impermanent loss)とは「ガチホしていたらこんなに儲かっていたのに、流動性マイニングをやったせいでこれしか儲からなかった」という損失のことです。
なぜこんなことが起こるかは後で詳しく解説します。
ここでは、流動性マイニングをしているとしばしば以下のようなことが起こることを覚えておきましょう。
「単純にガチホしていたら1万円の値上がり益のはずだった。
けど、流動性マイニングをやっていたから8000円しか儲からなかった」
このとき、流動性マイニングをやったことによって2000円損していますね。この2000円が変動損失です。
次は、変動損失が発生する仕組みを詳しく見ていきます。
AMMの仕組み
変動損失は、AMMと呼ばれるプロトコルを採用している取引所に、流動性を提供(流動性マイニング)したときに発生します。
AMMとは自動マーケットメーカー(Automated Market Maker)と呼ばれるプロトコルで、無人の仮想通貨取引所(DEX)でよく使われています。
有人の取引所では、仮想通貨を買いたい人と売りたい人をマッチングさせることで取引を成立させるのが通常です。
ビットコインのような人気の通貨であれば、取引相手がすぐに見つかります。しかし、マイナーコインの場合、なかなか自分が希望する条件で通貨を買って(売って)くれる人が見つからないでしょう。
そんなときに活躍するのがAMMです。
AMMを使う取引所では、通貨ペアごとに資金のプールが用意されています。
BTC/ETHのプール、BTC/BNBのプールなど、ペアの数だけプールが存在します。
例えば、ビットコインをイーサリアムに交換したい人は、まずBTC/ETHのプールに行きます。そして売りたい量のビットコインをプールに入れて、レートに応じた量のイーサリアムをプールから引き出します。
これなら、取引相手を見つけなくても、取引所が無人でも通貨の交換ができますね。
では、プール内のBTC/ETHのレートはどのように決まっているのでしょうか。
AMMが決めています。
AMMは以下のシンプルな計算式に従って、2つの通貨のレートを決めています。
xは通貨Aの枚数、yは通貨Bの枚数のことです。
そして、kの値は常に一定というのがミソです。
つまり、xが増えたらyが減り、yが増えたらxが減ります。
具体例を見てみましょう。
①の状態では、通貨Aと通貨Bは同じ枚数存在しているので、1:1のレートで交換できます。
①から②の状態になると、レートは1A=0.25B(または1B=4A)になります。
②の状態とは、①のときから通貨Aがプールにたくさん追加され(売られ)、通貨Bがプールからたくさん抜かれた(買われた)ということです。
つまり、通貨Aの価値が下がったことを意味します。
変動損失が発生する理由は、上記の計算式の存在が関係しています。
それでは、いよいよ変動損失が発生する理由を見ていきましょう。
変動損失が発生する理由
変動損失が発生する理由は、自分が流動性を提供した時点から、価格変動によって通貨の保有量が変わってしまうためです。
なぜかというと、x*y=kの計算式で保有量を調整されるためです。
具体例を見ていきましょう。
変動損失の具体例
現在の市場価格が1BTC=100USDTだとします(便宜上計算がしやすい数値にしています)。
流動性マイニングをするときは、通貨Aと通貨Bの価値を1:1の比率で提供しなければならないというルールがあります。
ある通貨を100ドル分提供するなら、もう片方も100ドル分でなければなりません。
そこで、あなたは10BTCと1,000USDTをBTC/USDTプールに提供しました。
話を極限までシンプルにするために、BTC/USDTのプールにはあなたの提供した10BTCと1,000USDTしかないとしましょう。
ここまでの状況をまとめます。
現在のあなたの資産額は、
10BTC=1,000ドル
1,000USDT=1,000ドル(ステーブルコインのため、1USDT≒1ドル)
=合計2,000ドル
ですね。
なお、k=10,000(10BTC*1,000USDT)です。
しばらくしたら、市場価格が1BTC=400ドルになりました。
しかし、この時点では、プール内のレートは1BTC=100USDTのままです。
なぜなら、プール内のレートはあくまでx*y=kのxとyが変わって初めて変動するからです。
市場がいくら動いていようと、プール内で取引がされない限りプール内のレートは動きません。
しかし、そうなるとプール内のBTCは市場価格に比べてお買い得になりますね。
もしプールで1BTCを買って市場で売ったら、400-100=300ドルの儲けが出るからです。
そこに目を付けたトレーダーたちが、プールのBTCを買いに来ます。
いつまでBTCを買い続けるかというと、プール内のレートが1BTC=400USDTになるまでです。
ちなみに、このように取引所間のレートの差を利用し、利ザヤを抜く手法のことをアービトラージといいます。
市場の影響を受けないDEXですが、アービトラージャーの動きによって、プール内のレート=市場レートに調整される仕組みになっています。
プール内のレートは市場と同じ1BTC=400USDTになりました。
さて、プールにはそれぞれいくらずつ通貨があるでしょうか?
x*y=kをベースに、連立方程式を使って解いてみましょう。
つまり、現在プールには5BTCと2,000USDTが入っています。
ここで、現時点のあなたの資産価値を見てみましょう。
5BTC*400=2,000ドル+2,000ドル=4,000ドル
2,000ドルの儲けが出ました。
ところで、もしガチホをしていたらどうなっていたでしょうか?
同じシナリオで、ガチホをしていたときの資産額は、以下の通りです。
10BTC*400=4,000ドル+1,000ドル=5,000ドル
ガチホをしていたときの方が、1,000ドル多く儲かっています。
この場合の変動損失は1,000ドルです。
なお、この例では流動性マイニングによる報酬を考慮していません。
場合によっては、マイニング報酬で変動損失をペイできることがあります。
筆者が保有中の銘柄の変動損失を計算してみよう
もう一つ具体例を見てみましょう。
ここでは、私が実際に流動性を提供している銘柄の変動損失を計算してみます。
※手計算のため、誤差が生じるのはご了承ください。
私は先月、バイナンスにてTKO/USDTのペアに約50ドル分の流動性を提供しました。
状況を整理します。
私が流動性を提供したときのx*y=kを求めてみましょう。
このk=1,528.31は常に一定です。
そして2023/1/9現在、TKOの市場価格は1TKO=0.2304USDTまで下がってしまいました。
現在のTKOとUSDTの保有量(xとy)を連立方程式を使って求めてみます。
計算上、私は現在81.46TKOと18.77USDTを保有していることになります。
ここで、資産価値を算出してみましょう。
81.46TKO*0.2304=18.77ドル+18.77ドル=37.54ドル
では、ガチホをしていたらどうなっていたのでしょうか。
59.81TKO*0.2304=13.78+25.72USDT=39.5ドル
両者を比べると、39.5-37.54=1.96ドルの損失です。
つまり、私は現在1.96ドルの変動損失を抱えています。割合にして、4.96%です。
ちなみに、現在までのマイニング報酬が約1.05ドルなので、半分はペイできていることになります。
しかし、これを見てより恐ろしいことに気が付いたのではないでしょうか。
資産全体で見ると、当初の51.38ドルと比べ現在は37.54ドルと-13.84ドルの含み損が発生しています。
13.84ドルの損失のうち、変動損失はわずか2ドル弱。
残りの約12ドルの損失は、TKOの価格下落から来ています。
実は、流動性マイニングで最も警戒すべきは、変動損失ではなく価格の下落なのです。
この点については、前回の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
変動損失を利用して利益を上げる方法
変動損失を利用して稼ぐ方法があります。それは、一方の通貨の価格が底値を突いたタイミングで資金を引き出すことです。
現在私が持っているポジションを例に説明します。
私が流動性マイニングを始めるときのポートフォリオは、以下の通りでした。
そして現在の成績は以下の通りです。
上記のうち、TKOの保有量に注目してみてください。今の方がTKOを多く持っていることが分かるでしょう。
仮に私がTKOの価格は今が底値だと判断したとします。そして、プールから資金を引き出したとしましょう。
そうすると手元に残るのは、81.46TKOと18.77USDTですね。
資金を引き出したことで、1.96ドルの変動損失は確定してしまいました。
ところが、しばらしくしてTKOの価格が流動性マイニングを始めた当初と同じ1TKO=0.4258USDTまでに戻ったとしましょう。
そうすると、資産価値は以下のようになります。
81.46TKO*0.4258≒34.69+18.77USDT=53.45ドル
流動性提供時の資産価値は51.38ドルだったので、ガチホしたときと比べ2.07ドル儲かっています。変動損失を被っても、プラスの利益が出ました。
TKOがこのまま上がり続ければ、さらに利益を伸ばせます。
これは、価格が下がった通貨の保有量が増えるというAMMの性質を逆手に取った戦略です。
このケースでは、USDTの保有量が減っています。見方を変えると、安くなったTKOをUSDTで買った、つまりドルコスト平均法をやっているということです。
変動損失を味方につける、意外な手法ですね。ちなみに、これの逆をやることで、価格が天井を叩いた場面で同じように利益を上げることも可能です。
ただ、この手法を成功させるには、価格が底値(天井値)であることを正確に見抜かなければなりません。上級者向けの手法といえるでしょう(私はやらないですかね…)。
変動損失のFAQ
なぜ英語ではImpermanent loss(非永久損失)というの?
場合によっては損失がなくなることがあるからです。
具体的には、通貨のレートが流動性提供時と同じ水準に戻ったら、変動損失は0になります。だから「Impermanent=非永久的」といわれているのです。
プールから資金を引き出さない限り、変動損失は確定しません(損失は非永久)。そして、変動損失が生まれている状態で資金を引き出すと、変動損失は永久損失(Permanent)になります。
だからといって、大きな含み損を抱えたままポジションを保有し続けるのは、塩漬けと同じです。
ちなみに、変動損失は英語で"IL"と略されることがあります。
いくら価格が動いたらいくらの変動損失が生まれるの?
価格変動と変動損失の早見表があるので、ご覧ください。
ポイントは、価格が上下どちらに価格が動いても変動損失が発生する点です。
忘れてはいけないのが価格変動による損失です。特に下落相場においては、変動損失とのダブルパンチを食らってしまいます。
流動性を提供するペアを選ぶときは、慎重に検討しましょう。
変動損失まとめ
まだいまいち理解ができていない場合は、何度も見返してみてください。
一つずつ順を追っていけば、必ず理解できます。