ペットをコロナから守るには
こんにちは、獣医師の小林元郎です。
2020年8月初旬、あるペット保険会社が
「新型コロナウイルスに感染した飼い主のペット預かり事業において、2頭の犬がPCR検査陽性であった」とのプレスリリースを出し、大きく報道されました。
このニュースを見て「え!犬もコロナになるの?」「犬からコロナが伝染るの?」と不安になった飼い主さんも多く、
たくさんのお問い合わせをいただきました。
私が副会長を務める東京都獣医師会にも
「ペットには、どんなコロナ対策が必要ですか?」「どこに行けばペットのPCR検査が受けられますか?」との質問が
多数寄せられています。
結論から申し上げましょう。
原則として、飼い主さんが新型コロナウイルスに感染していない限り、
もしくは、ペットが感染者と濃厚接触をしていない限り、
ペットにPCR検査は必要ありません。
新型コロナウイルスについては、さまざまな情報が飛び交い、
憶測レベルの不確かな話がまことしやかに拡散されていますが、
2020年8月現在、
ペットから人への感染は報告されていませんし、
飼育環境下でのペットからペットへの感染も報告されていません。
このことから、
飼い主さんや同居する家族が新型コロナウイルスに感染していない場合や
感染者とペットが濃厚接触をしていない場合に
ペットにPCR検査を受けさせることは、世界的にも推奨されていないのです。
そもそもPCR検査とは、検体を採取した時点で
採取した部分(喉の奥や鼻腔内など)にウイルスの遺伝子が存在するかどうかを調べるための検査に過ぎません。
採取時にウイルスが付着していなければ、陰性という結果になりますが、
採取後にウイルスが付着する可能性はゼロではありません。
つまり、常に陰性であることを確認するためには、毎日PCR検査を受け続けるか、
もしくは陰性の結果が出た後も、ウイルスに感染しないために「一切人に会わない」とか「外出しない」という極端な行動制限をしなくてはならないことになってしまいます。これって、人にとってはもちろんペットにとっても、現実的ではないですよね。
だからこそ、今回の報道を受けて「ペットにPCR検査を受けさせたい」と願う飼い主さんには、一度、冷静になって考えていただきたいのです。本当にPCR検査を受けることがペットのためになることなのか、ということを。
むしろ、飼い主さんに考えておいていただきたいことは、ご自身やご家族がコロナウイルスに感染したときのペットへの対応です。東京都獣医師会では、飼い主さんや家族が感染した場合やペットが感染者の濃厚接触をした場合には、約10日~2週間の検疫(感染対策を講じて接する)期間を置くことを提案しています。これは、海外からの報告により、PCR検査後の抗体検査で陽性になって感染が確認された犬や猫も10日~2週間程度でウイルスが大幅に減り、検出できなくなることがわかっているからです。
ペットにとっての一番の安心は、大好きな飼い主さんと一緒に「いつもどおりの暮らし」をすることです。その安心を守るためには、飼い主さんが健康でいることが第一条件。その意味でもペットにとって一番のコロナ対策は、飼い主さんがコロナにかからないことなのです。
新型コロナウイルスについては、まだわかっていないことも多く、出回っている情報の多くが不確定なものです。この先、どうなっていくかは誰にもわかりません。ペットとコロナについても冒頭に紹介したような断片的な情報が、今後続々と出てくるでしょう。本当の意味でのペットの安全を守るために、新しい情報に一喜一憂するのではなく、本当に必要な情報を見極め、適切な対処をする行動力を身につけていきたいものです。
東京都獣医師会では、ペットと新型コロナウイルスに関する信頼できる情報を、今後も随時公式ホームページなどで発信していきます。コロナ禍においても、ペットの健康と安全を守っていくために、ぜひお役立てください。
東京都獣医師会ホームページ「新型コロナウイルスについて」