私が獣医師になった理由① 「0勝20敗」からのスタート
みなさん、こんにちは。獣医師の小林元郎(もとお)です。
北里大学獣医学部卒業後、1993年に東京・成城学園駅近くに「成城こばやし動物病院」を開業。現在は同院の代表を務めるともに東京都獣医師会の副会長としても活動しています。ビジネスでもプライベートでも、とにかくじっとしているのが大の苦手。常に何かおもしろそうなことに首をツッコミながら、動き回っています。
noteでは、獣医師としてというよりもむしろ、動物病院の経営者として考えていること、若い世代に伝えたいこと、そしてこれから挑戦してみたいこと、面白い!と思ったことなどを、お話していきます。
第1回は自己紹介も兼ねて、獣医師になってから幾度となく訊かれた、
この質問への回答を率直に書いてみたいと思います。
「小林先生は、なぜ獣医師になったのですか?」
出ました!定番のご質問。
おそらく模範解答は、
「子どものころから動物が好きだったから」とか、
「動物の生命を救いたかったから」とか、
そのあたりですよね。
残念ながら、私の回答は違います。
それどころか、獣医学部に入るまで動物とは無縁の生活を送っていましたし、
20代半ばで獣医師になるまで犬すら飼ったこともありませんでした。
別に動物が嫌いというわけではなかったのですが、
身近に動物がいなかったし、
そもそも興味を持つきっかけがありませんでした。
では、そんな人間がよりによってなぜ、獣医師になり、
自分で動物病院まで経営し、獣医師会の役員として日々走り回っているのか。
それは、「数学ができなかったから」です。
私は1959年、東京・世田谷で開業医の長男として生まれました。両親に「医者になれ」と言われたことはありませんが、父の働く姿を身近に見て育ったからでしょうか、私はなぜか幼い頃から「医者になる」と決めていました。いや、勝手に「ならなくちゃ」と思いこんでいました。
そのくせ、特に勉強はしないのです(笑)。
幸か不幸か、父も母も「勉強しなさい!」と叱るようなタイプの親ではなかったので、
私も成績のことなど気にせず、好きな野球やサッカーをしたり友達と遊んだり、自由気ままに過ごしていました。
高校2年生くらいまでは。
高2になると学校が文系コースと理系コースに分かれ、
急に周囲が「受験モード」に切り替わりますよね。
そこで私も「僕は医者になるから、医学部に行く」と宣言してみたところ、
周囲から聞こえてきたのは「は!?おまえが?」という驚きの声。
つまり、医学部を目指すと言っただけで、驚きの声が起きるほど、
私の成績はひどかった・・・というわけです。
いや、文系科目はそこまでひどくなかったのですが、
とにかく、数学がまったくできない。医学部への合格を目指すには致命的な弱点です。
しかし、その弱点を弱点とも思わず
「僕は医学部に行く」と思い込んでいた私は、受験というシステムすら理解できないままに、
受験戦争の中に飛び込んでしまいました。
見よう見まねで受験勉強はしましたが、他の教科はともかく理系の要である数学の成績が伸びない。
その結果、
当然といえば当然ですが、最初の年の医学部受験は全滅。浪人が決定です。
しかも、その直後に受けた駿台予備校の選抜試験にまで落ちてしまいました(笑)。
今にして思えば、危機感というものが足りなかったのでしょう。
浪人中も、なぜか予備校近くの会社の人たちとの草野球やパチンコに熱中。
どうしても勉強に没頭できませんでした。
そして2年目の医学部受験も、全滅。
2年間で20回、医学部の入試を受け、0勝20敗という
ある意味すごい戦果を残し、私はむしろ呆然としていました。
悲しんでいたのではありません。
はっきり認識していたのです。「受験は自分に向いていないシステムだ!」と。
確かに私は数学ができない。
でも、数学ができる友達はいる。
その友達は、僕が受験会場で数学の問題が解けなくて困っていると知ったら、
すぐに駆けつけて僕の代わりにこの問題を解いてくれるに違いない。
だから僕は数学ができなくても、何の問題もない。いや、数学だけじゃなくて勉強そのものができなくても
問題ないんじゃないか。勉強やスポーツができる友達はいっぱいいるんだから、何かわからないことがあれば教えてもらったり助けてもらったりできる。友達がたくさんいることだって、人に自慢できる一種の「才能」だ。
大学は勉強ができる人を合格にするだけでなく、
友達がたくさんいる人を合格にしたっていいんじゃないか。
受験会場で毎回答案用紙に向かいながらそんな事をいつも考えていました。
実は今もそう思っています、いやそうすべきだと心の中で叫んでいます(笑)。
とはいえ、そんなことが実現するはずもなく、
目の前にあるのは、「0勝20敗」の現実のみ。
あー、これで3浪確定だ。
さすがにあと1年も耐えられそうにない。
一緒に予備校に通っていた1歳下の弟が1浪の末、医学部に合格を果たした事を考えると小林家的には安泰だ。
働こう!
そんな私に
父親が思ってもみない話を持ってきました。
「北里大学には獣医学部ってのがあるらしいぞ」。
その一言が、その後の私の人生を変えました。
<vol.2に続きます>