獣医師は「大工と園芸家」であれ
私は今、成城こばやし動物病院の代表、東京都獣医師会副会長など
いくつかの役職を兼任していますが、
中でも特に大切にしている役職があります。
それは、成城こばやし動物病院の「花壇係」です。
病院の前にある花壇を耕し、
パンジーやマリーゴールド、ハイビスカスなど四季折々の花を植え、
水や肥料をやり、
時期がきたら植え替える・・・・という作業を
もう病院開業以来26年以上続けています。
私が花壇で作業しているのを見て、
「え!?先生が自分で花壇の世話をしてるんですか?」って驚かれる方が
多いのですが、
私からしてみれば、この花壇の世話こそが、
成城こばやし動物病院の、いや、
獣医師としての私自身の原動力だったんじゃないかと思っています。
なぜなら、花壇の世話って、
獣医師に欠かせない素質を育ててくれるからなんです。
⬛ 獣医師が庭師から学ぶべきこと
皆さんは、「すごい獣医師」というと、
まず、手術が上手で何でも治してしまう獣医師を思い浮かべると思います。
確かに、それも一理あります。
でも、それだけでは、だめなんです。
獣医師には、リフォームや改造が得意な大工さんのような動的な能力だけじゃなくて、
植物を育てる「園芸家」のような静的な能力が欠かせません。
なぜって?
想像してみてください。
動物の健康管理や治療において、手術で解決できることは、ごく限定的ですよね。
大半の時間は
病気で弱っている動物や
高齢で要介護になった動物を
しっかり見守り、必要な処置やケアを行うことに費やされます。
ちょうど、
花が枯れないように水をやり、
必要に応じて
肥料を与える庭師の仕事と同じです。
いくら大工仕事(手術)が得意でも
園芸作業(しっかり動物を見て、必要なケアを見出してやること)が
できないのでは、獣医師としては失格ですよね。
だから私は
静的な感覚を養うための鍛錬だと思いながら、
花々と向き合ってきました。
ぐんぐん成長し、
見事な花をつけて人々を喜ばせ、
実を結んで次世代に生命をつなぎ、
そして時がくれば静かに閉じていく。
花々は実に多くのことを教えてくれます。
こうして長年花々と向き合ってきたおかげで、
私は大工的な視点だけでなく、
園芸家の視点をもって
動物医療に取り組むことができました。
だからこそ、こんなに多くの飼い主さんや動物と
良い関係を築き続けることができ、
その結果、30年近く順調に病院経営を続けてこれたんだと思います。
⬛ 人の目を意識して生きる
と、ちょっとカッコイことを書いてしまいましたが(笑)、
実は、花壇係をするにあたっては、もう1つ、すごく不純な動機があります。
それはね、
「人が見てくれること」!
子どもの頃から、
人に注目されると張り切るタイプなので
花壇の作業をしていると「あら!先生自らお世話を?」とか「きれいですね~」と話しかけてくれる
方も多くて、通りがかりの近所の人や病院を訪れた飼い主さんの注目を集められるんですよね。
誰も見てくれないとモチベーションも下がっちゃいますが、
こうやって見られていると人間、やる気が湧いてくるもんなんですよ。
それに、花壇はどんな派手な看板よりも、
効果的に病院のPRをしてくれます。
うちの病院は住宅街から成城学園前駅に抜ける道の途中にあるので、
通勤や通学で毎日のように前を通る人が多い。
そういう人たちが、
朝、出勤や登校の途中でうちの花壇を見て
「きれいだな。今日もいい日だ。頑張ろう」って思ってくれたら嬉しいし、
1日の学校や仕事を終えて疲れて帰ってきたときに
「ああ、今日も無事にここまで帰ってこられた」とホッとしてくれたら
嬉しい。
窓越しに「わー、このお花キレイ!ママ、このお花なんて言うの?」なんて声が聞こえたら涙が出るほど幸せを感じます。
ペットを飼ってない人も
花壇があることによって、
うちの病院の存在に気づいてくれる。
しかも「いつも花がきれいな病院」という
プラスのイメージで記憶に焼き付けてくれる。
これって、すごいことじゃないですか?
病院だけじゃなく
会社やお店って
常に社会に見られています。
地域の人や
関係者の目に「見られている」という意識が持てるかどうかの差って、
実はすごく大きいんですよ。
僕は花壇のおかげで、これを身をもって学ぶことができました。
皆さんも何か1つ、
本業以外で地域や社会とのつながりを作ってみてください。
自分の仕事や事業が
外部からどんなふうに見られているか、よくわかるようになると思いますよ。