#0218 錯乱

ある日、看護師さんに言われました。

「ねえ？ 入院した最初の日、何したか覚えてる？」

えっと。
まるで覚えていません。

でも、その質問で何となく察しました。

それに、別の看護師さんが、ちょっと離れたところから怖い顔でこちらを見てるし。あと、左右の手首に格闘したような傷跡が残っていて……。

どうやら、けっこう暴れたみたいです。

そういえば。両手に分厚いミトンっていうかナベ掴みみたいなものを付けられて、それぞれの手がベッドに固定されていたという記憶があります。
ふしぎなことに、拘束されていることへの憤りはなく、寝返りを打てないことのほうが悲しかった気がします。

ようするに、そこそこ錯乱していたようです。

これも後から聞いたんですけど、脳に送られるはずの血液が、手術中に一時ストップしていたらしいんですね。なので、ひょっとすると記憶やら言動がおかしくなったりすることがあるかも知れないということでした。

たぶん、そういうことなんでしょう。
わざとじゃないので許してください。

ともかくそのせいもあって、入院当初の記憶は、どれもこれも断片的で、あやふやです。たとえばーー

ちょうど帰ろうとしている友だちの姿を目撃したような気がします。呼び止めたのかどうか、ぜんぜん覚えていません。

青いコートを着た友だちが、おそろしくクールな目で、ベッドに横たわるこちらを見ていたような記憶があります。

そして、どうやら次男が来ていたみたいなんですが、これは幻覚とかじゃなくて実際にあったことみたいです。ただ、なんの話をしたのか、まったく覚えてないですけど。

それにしても。
冒頭と同じ質問（というかクレーム？）、いろんな看護師さんから投げかけられました。なんというか、よっぽどの錯乱ぶりだったのかも知れません。
何度もいいますけど、わざとじゃないのでどうか許してください。ほんとに。