ショートストーリー コロッケうどん

彼女にふられた。
帰る家も無く、金もなく、フラフラと町を歩き回った。

好きなものは、ギャンブル、酒、煙草。
生活もだらしない。
絵に描いたようなクズ。
女の家に転がり込んで、その日暮らしで遊び放題。
そんな俺のどこが気に入ったのか。

どこをとっても完璧な彼女は、俺を家に住まわせた。
仕事もしない。
家事もろくにできない。
その短所をかき消したくて、毎日彼女を抱きしめた。
彼女のスーツは、会社に行く前は、いつもアイロンにかけられ、パリッとノリが効いていた。
しかし、家に帰ってくる時には、必ずボロボロになっていた。
それが彼女の心を表しているようで、そこまでして何故あの会社に行くのか疑問だった。

その疑問をぶつければ当然のように「働かないあなたの方が不思議」と呆れていた。
その次に、今の仕事が好きなんだと、今まで会ったどんな女よりも可愛く笑っていた。
金が欲しいから、彼女は頑張るのかとギャンブルで勝って帰った時に、うどんを奢った。
なんでも頼めと言えば、彼女は、いつものうどんにコロッケを乗せただけだった。

金のことなら気にしなくても良いと言ったのに不思議なやつだと言えば、金はなくても暖かい食べ物と人の温もりさえあれば満足なんだと言って汁を吸ったコロッケを囓っていた。
店を出て腹がいっぱいだと笑う彼女は、見るからにいい女だった。

彼女は暖かいうどんが好きで、よく二人で食べに行った。
ギャンブルで負けて金が無いときでも、うどん代は残しておいた。
彼女との生活は、わりと穏やかだったと思う。
彼女が仕事に行っていない間は、酒と煙草を買いに行き、ついでに賭けを楽しむ。
負けてもうどんを食べに行けるくらいは残る。
彼女より先に帰って、鍵が開く音で玄関で迎えてボロボロになって、朝より不細工な彼女を抱きしめる。
これを何年か繰り返した。

さすがに刺激が足りなくて、もっとギリギリを味わいたくなった。
それで賭け金を釣り上げていった。
大負けしてもその日にあった女に縋りついた。
彼女より不細工で彼女より頭の悪い女達は、すぐに金を出してくれた。

ただ、運が悪かった。
負けが立て込んで、女側に言い寄る空きを作ってしまった。
家を提供してくれる彼女には、申し訳無いとは思ったが、頭の悪い女の条件はクズな俺と同じくらいレベルの低いものだったので、さっさと用を済ませることにした。

運が悪いと続くとは知っていたけれど、まさか彼女が早く帰ってくるとは思わなかった。
彼女は、顔の表情を無くして女が勝手に着ていた彼女お気に入りのパジャマをむしり取り追い出した。
俺は、必死に弁明したけども、聞く耳を持ってくれず、朝まで粘ってみても結局平手を食らうだけだった。

一日かけて思い返してみたが、やっぱり俺はクズヤロウだ。
彼女ほどの良い女は、もう会えない。
馬鹿な女の相手をして、彼女を失うだなんて。
彼女を思えば思うほど、涙が止まらなくなったいた。

公園のベンチで泣きに泣いた。
入口近いベンチで、子どもが泣き喚いていた。
そのせいで俺のことなど、誰も気にならないくらいでちょうど良かった。
うどん、うどんと喚く子どもの声で腹も減ってきた。
ポケットに手を突っ込んで小銭を出す。
一人分くらいの金は残ったいた。

すれ違った高校生カップルは、やはりうどんのことで口論をしていた。
おろし醤油うどんの麺は太いのが良いか、細いのが良いか。
彼女は、太麺が好みだったなと思い出す。

あの店は、太麺好きの彼女に合わせていっていた。
もうそれも必要ないことに気づき、近くのうどん屋へ適当に入る。
店内を占領する高校生グループを横切り、うどんを頼む。

なけなしの金で頼んだコロッケとうどんは、暖かく落ち着く味がした。
今までよりも少し細い麺は、なぜかもの足りない気がした。
しかし、汁をすった重いコロッケに重量があり、食べ合わせの良さを感じた。

俺が隅で食べていると高校生の一人が立ち上がる。
ゲームに負けた悔しさをあらわにして、注文カウンターに行く。
俺にもあんな青春があったなと、映画のワンシーンを見るような気持ちで、終始うどんをすすっていた。

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