ショートストーリー 枝豆ご飯

だしの香りに枝豆の若い匂いが混じる。
飯も豆も噛むほどに甘い。
白いご飯に混じる枝豆は、宝石のようにキラリと光る。
ホクホクの枝豆を大切に大切に食べた。

おにぎり屋の私は今日も元気にご飯を握る。
本日は雨。味噌汁をサービスにつけるも客の入りはふるわない。
することもなく、景気よく降る雨を店先からボーッと眺めていた。

すると、そこに現れたのは可愛らしい雨の妖精。
黄色い傘と黄色い長靴。黄色いレインコートの小さな子。
声をかけると見上げてくる顔は、小さな口をキュッと横に結んで、泣かないように我慢していた。
迷子になったらしい。

手招きして店に入れ、外からも店内が見える見晴らしの良い場所に座らせ、おにぎりとサービスの味噌汁もてなした。
小さな手に合わせた小さなおにぎり。
小さい紙コップの味噌汁。

枝豆がキラリキラリと食べられるのを待っている。
だが、涙を見せないお坊っちゃんは、おにぎりを大事そうに食べるけど、窓から見える外からは目を離さない。
ひたすらに迎えを待っていた。
母親らしい人が慌てて走ってくるのが、見えた。

それまで、一言も喋らなかったお坊っちゃんがママ!と声を上げて店を出る。
傘も意味がないほどに走り回ったのだろう母親は、子供の顔を見ると安心して膝をつく。
そして、駆け寄った彼をキツく抱き締めた。

その後、ビショビショの母親はぺこぺこと私に頭を下げて、おにぎりと味噌汁の代金を払おうとする。
私が雨の日サービスなのでと断ると、せめての礼にとおにぎりを買って帰ってくれた。

それはあの一言も喋らなかったお坊っちゃんが、気に入ってくれた枝豆のおにぎりだった。
注文されて優しく三角形を握る。
ご飯も枝豆も雨上がりみたいに綺麗に光ると、レインコートのお坊っちゃんは笑っていた。
待っている間、彼の母親はサービスの味噌汁を飲んで冷えた体を温めながら、子供の話を聞いていた。
枝豆の甘さのような空間に、思わず雨も良いかもしれないと思ってしまった。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。