金曜日のショートショート05 キャンセル
第五回お題キャンセルから始めました。
無かった事にしたい時、役に立つキャンセルボタン。
それは、パソコンで打ち間違えた時。プライベートなことをSNSに上げそうになった時。浮気相手に送るつもりのメールを、上司に送りそうになった時。行きたくないデートに誘われた時。
「おっと、しまった」を全てクリアにするボタン。あっという間に跡形もなく、美しく汚したくなる白紙へ戻す。それは文字でも、約束でも、繋がりでも、人でも慈悲なく白にする。
白紙に戻ったその裏に、捨てられたゴミ達が黒く渦巻いていることも知らずに、キャンセルボタンは、無かったことにする。瞬く間に黒に飲まれ、キャンセルされた者たちは、思い出されることも利用されることも決してない。完璧な美しさには、汚れなど要らないのだから。
しかし、無駄に産み出され忘れられたキャンセル達は、白紙の裏側で必要とされる時をじっと待っている。白紙の裏で、ボタンを押した者たちの様子を、ずっと伺い待っている。
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