ショートストーリー シーツオバケと坊ちゃんかぼちゃ
ホクホクに蒸されて水分たっぷりのかぼちゃに、ゆっくりスプーンをさしていく。
種がくり抜かれた穴にはバターがトロトロと溶けていき、またたく間にオレンジ色に染みていく。
バターの染みたところと染みていないところを行き来して、夢中になってかぼちゃをすくう。
幼稚園で描いたかぼちゃのオバケの絵をスキップして、息子が届けてくれた。
目と口がついた可愛いオレンジ色の球体は、息子が必死に怖い顔を思い浮かべて描いたのだろう。
目を輝かせて、怖いかどうかを私に何度も聞いてくる。
家事をしながらも怖いと答えれば、息子は満足したように家中を駆け回る。
覚えて帰ってきた「トリック・オア・トリート」を叫びながら。
飽きたら、私のところへやってきて、今度はシーツを被って怖がらせて、また走り回わる。
それを無限ループしていた。
何度言ってもシーツを被り、引きずり、危ないったらありゃしなかった。
シーツオバケに扮した息子を追いかけ、オバケ以上に恐ろしい無尽蔵の体力に、付き合わされた。
おかげで夕食どころかおやつの準備の前に疲れてしまう。
息子はまだ、おもちゃ箱の前でキャッキャッと一人浮かれている。
ハロウィンを前にした息子のハイテンションに、私はついていけなかった。
だが息子は、おかまいなしに意味もわからないまま「トリック・オア・トリート」を舌足らずに連呼していた。
だんだん私も腹が立ってきて、少しばかり悪戯心が働いた。
蒸し器を用意して、そこに少し細工をした坊ちゃんかぼちゃを放り込んだ。
やっとの思いでシーツを被った息子を捕まえた。
シーツを取ると息子は、汗で髪が顔に張り付いていた。
空気の薄い環境で、いつも以上に走り回ったせいで息もずいぶん上がっていた。
シーツは洗い直しだなとなかば諦め、おやつタイムを言い渡す。
疲れていたはずの息子は、おやつと聞くと途端に元気になった。
手洗いを言いつけると、また元気に洗面所に走っていった。
そのすきに、私は蒸し上がった坊ちゃんかぼちゃを皿に出す。
バターをくり抜いた穴に入れて、二人分のスプーンを出す。
息子が椅子によじ登り、ピカピカになった手を見せてくれた。
お腹も準備万端らしく、坊ちゃんかぼちゃの香りでグウと鳴っている。
「二人でほじくって食べようね」
私と食べるのが、そんなに嬉しいのかやっぱり息子はハイテンションのままだった。
息子の前にホカホカの坊ちゃんかぼちゃを出す。
あえて、正面になる方を私へ向けて。
待ちに待ってる息子へ皿をくるりと回す。
ジャックオーランタンの顔を施したかぼちゃを見て、息子はワアと叫んだ。
顔がついてると驚く息子に、いたずらっぽい笑顔をむけてやる。
ビックリさせようと思って私が彫ったと言えば、息子はちょっとむくれていた。
「いたずらばかりするからだよ」
ちょんと尖らせる口の中に一口すくったかぼちゃを入れてやる。
目を細めて、バターとかぼちゃのとろける感覚を楽しんでいる息子は、いたずらを反省しているか分からない。
だけど、いたずらがすぎると、この美味しいおやつが無くなるだろうということは、想像できたようだった。
お母さんとおやつはオバケに強いのだと、ハロウィンの前に身を持って分からせることが出来て、母親としてはとても満足のいく昼下りだった。
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