ショートストーリー 栗まんじゅう

見るだけで辛いせんべい。
かじりつく度にバリバリと賑やかな音がなる。
だけど、かじっている本人は、一つも楽しくなさそうな表情だった。
むしろ横顔はどこか寂しげで、赤く元気な発色をしめすせんべいとは正反対。

そんな彼女の、ちぐはぐな食事風景に目が離せなかった。
食べかけの栗まんじゅうから、大きな栗の欠片がゴロリと崩れたのもその時ばかりは、気にならなかった。

辛いもの好きな彼女は職場の後輩だが、近頃見るからに元気がない。
先輩らしく気を利かせようと相談にのろうと、気を利かせてみた。
だけども、大丈夫という一言であしらわれた。

確かに、先輩といっても一つ上というだけで、仕事は彼女のほうが出来る。
取り柄もない僕では、彼女の足を引っ張ることこそすれ、支えることは無いだろう。
自分の不甲斐なさに愕然としつつ、休憩に入り食堂へと向かった。

同僚達に相談しても、彼女はしっかりしているからと言って、気にもしていない様子だった。
それより彼女より下の後輩達を気にかけてやった方が良いんだとか。
しっかりしていようが、してなかろうが心配くらいはしてあげてもいいじゃないかというのが僕の自論だ。
だが、なんの成績もあげていない僕が言ったところで、なんの影響力もなかった。

同僚達は、彼女より下の後輩を気遣いと言いつつ、若さと可愛さに目がくらんでいるようにも見えて、なんともやるせなかった。
とりあえず、若い後輩のケアは間に合っているということで、納得しておいた。

食堂で今日も彼女は一人、真っ赤なせんべいを頬張っていた。
辛い物が苦手な僕は、それを見るだけで口がヒリヒリしてくる。
彼女が、毎日口をヒリヒリさせていると思うと、なんだか余計に心配になってきた。
彼女の目の前の席に無断で座る。

彼女は驚いた顔をしていたが「お疲れ様です」とだけ声を振り絞る。
僕は、常備している栗まんじゅうを彼女の手の中におさめた。
「辛いものばっかり食べてるんじゃ、痛々しくて見てられないよ!」
そして、彼女の手の中の栗まんじゅうがどれほど素晴らしいものかプレゼンした。

甘いもので脳が働くとか、和菓子はダイエットに向いているとか、栗の味がどこの店より濃いだとか、大きな栗が食べごたえがあるとか、ほどよい甘さが癖になるとか、散々語った。
「君の頑張りは知ってる! でも、食べる物にくらい甘えてもいいじゃないか」
と締めくくった。

語った後のポカンとする彼女の顔を見て、ようやく余計なお世話だと悟った。
慌てて弁解しようとしたら、彼女はフッと表情を和らげ「いただきます」と栗まんじゅうを頬張った。
彼女は、静かに食べているがその表情からは美味しいという声がひたすらに聞こえていた。
食べ終わった彼女は「確かに癖になりますね」と笑っていた。

僕は、やっぱり彼女から目が離せなかった。

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