ショートストーリー 厚焼き玉子サンド

ふんわりジューシーな出汁巻き玉子を、やっぱりフワフワなパンに挟む。
それだけでご馳走になるのが、拍子抜けなような幸せなような、シンプルな味に反して複雑な気持ちになる。

塾講師の夫の職場では、毎日のようにカツサンドを食べるらしい。
変なルールだと思ったが、特別気にもしなかった。
食べ盛りの大学生のアルバイトや若い講師には特に好評らしい。
パン好きの夫も気に入っていて、仕事に行くのが楽しそうでなにより。
と言いたいところだが、一つ問題がある。
そのカツサンドが美味しすぎることだ。

高級品を食べすぎて、夫の舌が肥えてしまった。
朝はパン派の夫に合わせて、せっかくサンドイッチを作ってもイマイチな反応になる。
最終的に
「これも美味しいけど、やっぱり高級カツサンドは別格」
なんて言われると、謎の敗北感が襲う。

なんとしても主婦の矜持を守るため、私は幾度もサンドイッチを作る。
最初はカツサンドを作っていたが、肉からしてランク違いなようで、カツサンドは諦めた。
毎日様々な具を挟むもカツサンドを超えることはなかった。

挟むだけでも一苦労で、そろそろネタ切れ諦めもつく。
今日はご飯でも食べようかと厚焼き玉子を作った。
だが、ここに来て朝食のパンを続けた癖が見事に発揮されてしまった。
肝心のご飯が炊けていない。

主食になりそうなものはサンドイッチ用のパンのみ。
考えるのも面倒くさくて、マヨネーズを塗って、厚焼き玉子をそのまま挟む。

意外にボリューミーな見た目に夫も驚いていたが、食べてみても驚いていた。
出汁で作った厚焼き玉子がパンとマヨネーズと上手く調和していた。
これには夫も飛び上がり、カツサンド超えの太鼓判を押し興奮していた。

こうして私は高級肉に勝利し、有頂天で厚焼き玉子サンドを作り続けた。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。