ショートストーリー かき氷〜ブルーハワイ味〜

適量を超えたシロップ。
飲み込みにくい甘ったるさは、噛まなきゃ食べれない粗削りの氷と溶け合ってもまだ甘い。
喋る度、舌が青くなっていることを友達は笑う。
その友達も笑う度、色付きの舌がチラリチラリと見える。
祭り囃子にも負けない笑い声は、人を集める。
クラスメートが私達に気がついて、笑いの輪がどんどん大きくなっていった。

一年に一度箪笥から出てくる浴衣に袖を通す。
おばあちゃんは、毎年裾を直してくれる。
有り難いけれど、年々針に糸を通すのも難しくなっているおばあちゃんに、申し訳ない気持ちもある。
一度、買い替えることを相談すると、おばあちゃんにとって針仕事は孫の成長を噛み締める時間なのだと、言われてしまった。

それに、三年前に袖につけたお好み焼きソースの後を隠すため、裁縫の腕も磨いたのだから披露させてほしいとまで言う。
中学に上がって買い替えた新品の浴衣。
それを盛大に汚して、泣きながら帰ったことを家族は浴衣と一緒に思い出も引っ張りだしてくる。

おばあちゃんは、汚れてシミになった部分に刺繍をして隠してくれた。
何日もせっせと縫い物をする後ろ姿は、丸っこいのにカッコ良かった。
だけど、汚したことを何年も言わないで欲しい。
あれは、ウッカリで事故なのだから。

そうこうしているうちに、友達との待ち合わせ時間も迫り、ヘアセットからメイクまで茶化す家族を無視してバッチリ仕上げた。
学校の誰に合うか分からないから、昨日のうちにネイルも新しく綺麗に塗り直したし、帯の結び方の研究も怠らなかった。

出かける前に玄関の姿見で最終チェック。
流行りを全部盛り込んだ浴衣姿の私は、流行り廃りのない浴衣の柄にもピッタリ馴染んでいた。
行ってきますと、声をかける。
一番最初に声を返してくれたのは、浴衣に袖を通しただけで可愛いと目を細めてくれたおばあちゃんの声だった。

結局、集合時間より早めに集まった私と友達は、二人で屋台を回る。
まずは互いに、一年に一度の浴衣姿を知りうる言葉の限りに褒め合う。
汗を流して褒め合う姿は、奇妙だろう。
でも、すれ違う浴衣姿の子達は男女関係なく、だいたい私達と同じことをしていた。

日が暮れはじめ夕焼け空は、祭りの熱気の色を表しているようだった。
喉の渇きと暑さを癒やすために、かき氷屋の列に二人で並ぶ。
夕暮れは、本当に人の顔が暗く見える。
浴衣の柄で友人を判別して、目立つ格好の自分を心の中で褒め称えた。

屋台の荒い氷をペンギンの絵が入ったカップに貰い、涼しい色のブルーハワイのシロップを自分でかけた。
セルフ式のシロップに心が踊る。
だから、今年も裾を青に染め上げてしまった。

ブルーハワイの青とは違い、私の顔が真っ青になる。
高校生になってまで泣くことはない。
だけど気持ちは落ち込む。
ガリガリ。
シロップをたくさんかけた氷を食べても落ち着かない。
なにより、おばあちゃんになんて言おうかと、心は沈んでいく。

元気を出せと友達は言う。
なんどもお気に入りを汚す、この萎んだ心が分かるかと私は当たる。
八つ当たりに怒られても仕方ないのに、友達は突然無遠慮に笑い出した。

私の唇も舌も真っ青なのだ。
おまけに顔も青かった。
友達の私の怒りにお構いなしな笑いは、なぜか私にも伝染した。
そのまま二人でゲラゲラ笑いだして、居合わせたクラスメート達も巻き込んで笑う。
笑い上戸になったまま帰って、また家族に笑われるのだが、どうでも良かった。
おばあちゃんは、またシミになったところに刺繍をしてくれた。

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