ショートストーリー ファルファッレのサラダ

リボン型のファンシーなマカロニを茹でてマヨネーズで和える。
モッチリとマヨネーズを吸ったファルファッレだけど、食べただけで可愛くなれる気がした。

二人目の旦那と別れた。
離婚届と証拠写真を無言で突きつけられた。
何も弁解しないで離婚届にサインをすると、私の反応が気に入らなかったのか罵りながら出ていった。

三人目の旦那となる人へ電話をすると、相手はとすぐに帰ると言って電話をきった。
二人目と違って三人目は裕福だ。
今住んでいる部屋も、二人目との別居のために彼が用意したものだ。

浮気症な私より浮気体質な二人目は、結婚して三日目で知らない女と遊びに出掛けていた。
この結婚生活が長くないことを悟った私も、すぐに三人目の彼と交際をした。
その時に、私が悲しみにくれていると勘違いをした三人目は、この部屋をくれたのだ。

マンションの高いところにあって、部屋数も多くて広い。
一人で住むには広すぎるくらい。
こんなことなら、娘も連れてくれば良かった。
煙草の火をつけながら、小さな後悔をする。

煙草を吸いながら思い出すのは二人目の旦那より、何年も会っていない娘のこと。
それに、連絡もとっていない一人目の旦那のこと。
浮気症な私を許してくれたのは、彼くらいだ。

三人目も結婚したいと迫ってきたことがあるが、二人目の旦那と会いたくないと、うやむやにしていた。
だが、それも今日で終わりだろう。
彼は、きっと結婚に向けて準備をするはずだ。
断る理由もないが、どうしようもなく寂しがり屋な私の浮気症が治るほどの縁を感じない。
二人目は論外だが、そう考えると一人目の旦那から逃げたのは間違いだったと今さら悔やむ。

言い訳をするなら、一人目の彼は大き過ぎる器が怖くて寂しかった。
私の不貞に気付いているはずなのに、何も言わずに困った顔をする彼に耐えきれず、彼も娘も置いて家を出た。
家を出るときの彼の悲しげな表情は、今も頭から離れない。
二人目の旦那のことなら、明日にでも忘れられる。

でも、一人目の旦那は生涯忘れることはないと思う。
今でも、笑った時の目尻の皺を覚えている。
最後に見た笑顔は、料理下手な私がファルファッレで作ったサラダを食べた時だ。
市販のマヨネーズで和えただけのつまらないサラダだったのに。
「ファルファッレが華やかな味を演出してる」
そう言って、リストランテでも出せると美味しそうに食べてくれた。

短くなった煙草の火を消して、棚に並ぶ三人目の旦那がくれた数種類の乾燥パスタに目を向ける。
三人目の旦那が着くまでに軽くつまめるものでも作っておこう。
私は鍋に火をかけ、迷いなく乾燥ファルファッレに手を伸ばした。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。