ショートストーリー こんぺいとう
甘い星から落ちてきたカケラ。
父はそう言って、私の手に一粒だけのせてくれた。
庭で仰向けになって流星群を見る。
隣で瞬き一つしないで夜空を見上げる息子は、今か今かと流れ星を待っていた。
30分前に流れていったときは、初めて見る流れ星に歓声をあげていたが、今は鬼気迫る表情をしている。
キラリと右から左へ流れていくと、アッと声をあげて悔しそうな顔をしていた。
「何か願い事でもするの?」
息子が一生懸命になる理由なんて、他に思いつかず笑うのを我慢して、聞いてみる。
しかし、私の予想に反して息子は違うと言う。
この数秒でさえ、息子は夜空から片時も目を離さない。
理由を教えて欲しいのに、私と話すことも煩わしそうにしている。
ただ「お母さんもしてたことを試すだけ」と言われてしまった。
特別、天体に興味を持ったこともなく、変わったことは無かったはずで、私は息子の言葉に首を傾げた。
「お母さん、何かしたっけ?」
そう言うと息子はようやく私と顔を合わせた。
「星のカケラを食べたって前に言ったじゃん!」
そう言うと僕も食べるんだと、鼻息荒くしてまた夜空を見上げた。
そういえば、そんなことも話したかもしれない。
私は、流星群のニュースを聞いたときのことを思い出した。
父に貰ったのは、ただのこんぺいとうだったが、父のそのジョークが好きで、よく流星群を見ていた。
その話を息子が真に受けたことに愛しさがこみ上げる。
真剣な表情の息子をギュッと抱きしめる。
息子は、空が見えなくなると身をよじったが、そんなところにも愛らしさを感じた。
息子が流れ星に集中している間に、私はそっとキッチンに戻った。
こんぺいとうを一粒忍ばせて、ゆっくり庭へと戻る。
私が庭に出ると、ちょうど一筋キラリと光った。
息子も気が付いたようで、パチンと空に向かって手を叩く。
音に驚いた息子が、私の方を見る。
「お母さん、捕まえたの?」
私は、手を開いて中をみせてやる。
息子は、笑顔で口の中の星のカケラを転がしていた。