ショートストーリー ホットケーキ
素朴な味と香りが、心地良さを運んでくる。
クリスマスの賑わいが過ぎ去り、穏やかなひとときが戻ってきた。
パーティーの飾り付けを押入れに押し込んで、ホッと一息ついた。
毎年、この時間に師走の忙しい現実を見せつけられる。
あと一週間で、餅つきの準備をし、大掃除を終わらせ、お節を作って、子供達の宿題の面倒を見る。
忙しいのは今からだが、パーティーが終わると、年末行事の一つを終わらせた気分だ。
子供達の笑顔が満足感に繋がるから、よけいにそう思う。
普段は野菜なんて箸もつけようとしない子供達も、星型やハート型の人参のグラッセは取り合ってくれていた。
ビンゴの景品にされるくらい人気料理で、頑張ったかいがあった。
しかし最後は、皿の上で一つポツンと光る星型のグラッセをどちらが食べるか揉めていた。
見かねた夫が奪い取ってしまい、二人ともカンカンだった。
あれには、私も呆れた。
夫ながらに、あれはない。とため息も溢れる。
最後の最後で喧嘩になるんじゃないかと、ハラハラして、例年より余計に疲れた。
昨夜のパーティーの余韻に浸って百面相していたら、リビングにいたはずの息子が私を呼んだ。
サンタさんからプレゼントされたゲームを夢中になって遊んでいたはずだ。
もしかしたら、お腹でも減ったのかと思ったが、そのとおりだ。
ただ、お腹をおさえて腰をクネクネした動きで訴えてきて、プッと吹き出してしまった。
ゲームのキャラクターがそんな動きをしていたのだろう。
息子は、自分のひょうきんな動きにずっと笑っている。
息子の笑い声は、よく響く。
クリスマスなんて関係なく、いつもパーティー会場のように明るくする。
「そうそう、笑ってなよー」
息子はそう言いながら、ホットケーキミックスを渡してくる。
陽気な息子は昨夜のパーティーのことなど、すでに過去のことにしているみたいに、今はクネクネ腰を動かすことに一生懸命だ。
ホットケーキミックスをそっと渡してくるあたり、抜かりがないとは思う。
だけど、彼の明るい性格に今年もずいぶん助けられたのだから、これくらいは許してあげよう。
「ママのホットケーキ美味しいよー」
フライパンで焼く間、分かりやすくゴマをする息子に、また笑ってしまう。
そうこうするうちに、甘い匂いにつられた娘も夫もやってきて、穏やかかつ賑やかなおやつタイムとなった。