ショートストーリー チーズクッキー

甘いものは得意ではない。
だけど、ほんの少しだけの糖分が活力になったりする時だってある。
チーズの塩気とクッキーの甘さは、そのどちらも補ってくれる僕の心の拠り所スイーツだ。
これが辛いもの好きな可愛げのない彼女からの差し入れなら、どれほど良かっただろうか。

チーズクッキーは、甘い香りを振りまく可愛らしい後輩から貰った。
彼女は優しくフワフワと可愛げがある。
疲れた身体に、彼女の甘い笑顔はよく効いた。
同時に付き合っていた彼女の可愛げのなさにも気が付いた。
だんだんと、甘い方へと考えも体も流れていき、長年付き合った彼女を振った。
可愛い後輩と付き合うのも時間の問題。
だけど、甘いもの好きな彼女とは、食の好みがあまりに合わない。

気を利かせた後輩は、僕に甘くないチーズクッキーをくれた。
とても僕好み。
美味しさを誰かと共有したい。
酒のつまみにしながらそんなことをふと考えた。
瞬間、真っ赤なせんべいに噛りついた元カノが脳裏をよぎる。
感情も気遣いも読みにくい彼女も、きっと一緒に食べてくれるだろう。
そんな甘い想像をしていた。

フワフワとした洋菓子のような後輩からの着信。
味の感想と礼を言うと、彼女は喜んだ。
彼女の好みはもう少し甘いものらしい。
だけど僕の好みに合いそうだと、食べた時に閃いたと言う。
彼女のプレゼント相手の候補に、すぐに上がったことは嬉しいはずなのに、なぜだか少し寂しかった。

缶いっぱいの甘じょっぱいクッキーを、何日かかけて食べる。
可愛らしい絵が描かれている缶は、見る度甘い彼女のことを思い起こさせる。
クッキーがなくなる頃には、甘みに慣れ、自然ともう少し甘くても良いと思っていた。
贈ってくれた彼女のことで頭がいっぱいで、変わりに食堂で見かけた赤く辛そうなせんべいを頬張る彼女を見ても、何も思わなくなっていた。

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