ショートストーリー コッペパンと屋上

千切る時のフカフカの触り心地が好き。
口の中で溶けていく柔らかい生地も好き。
だけど、千切る時の抵抗感も好き。
噛み続けると、小麦の香りと甘さがとろとろと溶けていった。

パンを小さく小さく千切る。
地面にパラパラ撒くと、待っていましたと言わんばかりの羽の音。
たくさんの羽ばたく音が近づいて、私を囲む。
私の近くにスッと降り立った鳩は、私には見向きもしない。
転がったパンの欠片だけを追っている。

友達がいない僕は、こうして鳩にパンを分ける時だけが楽しみだ。
必死にパンを啄む鳩達に、学校に来る意味を作って貰っている。

時々、口の中に含んでパンを味わう。
クラスメートとは一言も喋らずに給食を終わらすのに、鳩とは一緒にコッペパンを食べる。
たった一つのパンが、それだけで美味しく感じる。

同じことをクラスメートともすれば、給食も学校も楽しい。
理屈は分かっているけれど、一歩踏み出せない。
彼らとはノリが違う。
僕が鳩なら彼らは鷹やカラス、美人達はホトトギスだろうか。

なんにせよ、何も無い僕はただ日常の平穏を願う鳩だ。
刺激を欲しがる彼らとは、会話が成立するとも思えなかった。

パンを小さく千切っては撒く。
パンを突いて転がしている鳩も、柔らかな小麦の香りと甘さが分かるのだろうか。
もしそうなら、この鳩達もジャムが欲しいと騒がしい彼らとは合わなそうだ。

パンが無くなり、制服についたパンくずをはたく。
僕がパタパタ制服を揺らすと、鳩もパタパタと飛んで帰っていった。

群れを成して飛んでいく鳩たちの行方を目で追う。
近くの公園へ降りたった。
後方で遅れていた一羽だけ、旋回して僕の方へ戻ってきた。
その一羽は、僕が制服をはたいて落とした見えないくらい、小さなパンくずを探していた。
僕とその一羽はあまりにも似ていた。

帰る時、彼らの根城にしている公園に寄ってみた。
ベンチに座っている女の子に見覚えがあった。
同じクラスの鷹みたいな女の子。
彼女は、鳩に混じってコッペパンを噛じっていた。
そのことを知ってしまった日から、僕は学校に行くのにドキドキした。

給食でコッペパンが出ると、なおさら胸が高鳴った。
彼女に声はかけていない。
だけど、仲良くなれる気だけはしていた、
鷹のように見える彼女も、僕と同じ鳩なのかもしれないと思えたから。
僕は、コッペパンを待ちわびた。

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