ショートストーリー かき玉汁

ご飯に味噌汁。
それさえあれば、他にいらない。
確かにプロポーズの時に、僕はそう言った。

ご飯と味噌汁さえあれば良いから毎日、僕にご飯を作ってほしい。
と半ば縋るようなプロポーズを僕は妻にした。
普通を煮詰めたみたいな僕が、可愛い彼女をお嫁さんに貰うためには、そうする他に考えつかなかった。
こんな僕に彼女は二つ返事でOKしてくれて、ご飯も弁当もおかずを何品も作ってくれて、家もきれいに保ってくれた。

それに安心した僕は、仕事にかまけてばかりで、妻を蔑ろにしていた。
今朝、妻が寝坊した。
仕事のストレスもあって、弁当を持っていけないだけで妻を怒鳴ってしまった。

そのまま朝ごはんも食べないまま家を出ていって、昼ごはんも食べないまま、帰宅した。
いつもみたいに何品ものご飯を想像しながら。
だけど食卓の上にあったのは、冷めきったご飯とかき玉汁だけだった。
妻は眠っているのか、キッチンには居ない。

プロポーズどおりの食卓。
確かに言ったけど今かと正直、愕然とした。
ただ、妻の怒りも垣間見た。
温めて直して、ズルリと花が散ったような卵を飲む。
暖かさが胃にしみた。
怒っていても、プロポーズどおりにご飯を作ってくれた妻に感謝して、食事を終えた。

物足りなさに冷蔵庫を開けると、明日の弁当の下ごしらえがされてあった。
妻の優しさに頭が下がるばかりで、明日は土下座してでも謝ろうと、心に決めるのだった。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。