ショートストーリー ソーセージ&2種のポテトサラダ

パキッと綺麗に割れる茹でたソーセージから、熱々の肉汁が吹き出す。
舌を冷ますためにマヨネーズで和えたポテトサラダを食べる。
マイルドなソース舌を休ませてくれる。
箸休め用のポテトサラダは、酸味の効かせたドレッシングが染み込んでいる。
ソーセージの熱さもマヨネーズのしつこさリセットされ、またソーセージにもマヨネーズ味のポテトサラダにも手を伸ばす。

犬を拾うように人を拾った。
お人好しだし、危険だし、救急車や警察を呼んだほうが良かったし、何を考えているんだと、自分でも思う。
だけど、クリスマスイヴに行き倒れる人が居たら、仕方ないだろう。
それに、傷もない、苦しむも様子も、酔っている様子もない。
ただ眠りついている人を救急車やパトカーに乗せるのは、気が引けた。

行き倒れ青年は、なかなか目を覚まさなかった。
名前がないと不便ということで、太郎と呼ぶことにした。
昔、飼っていた犬の名前。
もちろん、飼っていた太郎も拾った。
なんでも拾って帰ってくるなと、両親に叱られたけれど、あの時からほっといたら駄目だと思っていた。
私は、いくつになっても成長がないのだろう。

青年の太郎は、ほどなくして目を覚ましたが、なかなかに図太い性格のようだ。
目を覚ますなり、シャワーを貸してほしいと頼んできた。
暖まったらお腹が空いたと、食べ物を強請ってきた。

クリスマスにお腹を空かせたまま外に放り出すのも気が引けた。
なにより、犬の太郎みたいに悲しげな表情をされたら、与えずにはいられない。

私も行き倒れの太郎が目を覚まさなかったことで、食事がまだだった。
クリスマスイブに誰かと食事が出来るのは、案外幸せだと気が付く。

私は、冷蔵庫にあるもので思ったが、じゃがいもとソーセージしかなかった。
年末は実家に帰る予定をたてていたので、整理をしていたのをすっかり忘れていた。

仕方なく、ソーセージを茹でる。
じゃがいもは、なんとか料理にみえるようにと手持ちの調味料で味をつけてサラダにした。
時間もかからず完成して太郎を呼ぶ。

素早い完成に、私が料理上手なことを期待しながら、太郎はテーブルに向かった。
盛り付けられたソーセージとポテトサラダを見て口をへの字にしていた。
「お姉さん生活力低いね」
図太い太郎は、ストレートな表現で私の傷をえぐりに来た。

イヴの直前に、ふられた思い出が蘇る。
私は、同じような言葉で恋人にふられたことがある。
犬の太郎が無くなる前のことだ。
休暇を早めにとって実家に帰り、太郎のフワフワの毛をぐしょぐしょに濡らして泣いた。
老犬の太郎は、優しい顔で私に寄り添ってくれていた。

今は、実家に戻っても太郎はいない。
寂しくて、悲しくて、心細くて、恋愛が怖くてできない。
ふられた時に慰めてくれる太郎がいないのだから。

悲しい過去を頭から消し去ろうと、頭を振り払う。
夕食にありつけただけでも感謝して欲しいと、行き倒れの太郎に言うと彼はそれもそれうだと笑っていた。

太郎とテーブルを囲んで質素な食事をとる。
何も喋らないでモクモクと食べる太郎に、だんだん冷静になってきた。
イヴに何をしているんだと。

「なんか、こういうご飯食べてるとマリアとヨセフの時代にタイムスリップしたみたいだよね」
キリスト教に詳しくはないが、その手の話だということは理解できた。
それでも話の全容が掴めず生返事をすると、太郎は貧困に窮していたマリアとヨセフを偲びイヴには、ソーセージとポテトサラダを食べる地域もあると教えてくれた。

タイムスリップという感覚は、確かに納得出来た。
冷蔵庫を開けて、ソーセージとじゃがいもしかない絶望は、そうそう味わえるものではない。
しかもイヴという特別な日にだ。

そんなことよく知ってるなと感心する。
昔の人も食べていた。
その事実だけで、ソーセージもポテトサラダも特別感が増して美味しい夕食になった。

翌朝、ソファを貸していた太郎が居なくなっていた。
一枚のメモには、私の健康を気にかけてくれている言葉とお礼の言葉。
その後には、メリークリスマスと歪な文字で書かれていた。
最後は、犬の肉球のような拇印。

不思議なことに行き倒れの太郎は、私の名前をしっかり記していた。
ふつうなら気味が悪くなるようなこと。
だけど、私はそうはならず、むしろ神様からのプレゼントだと思えた。

クリスマスは犬の太郎が他界した日だった。
だから、昨日出会った行き倒れの太郎は、犬の太郎だと心から信じれた。
私を心配して見に来てくれたのかもしれない。
そうだとしたら太郎の好きなソーセージを振る舞えて、本当にラッキーなイヴになった。
しばらくの間、太郎が残したメモを胸に当てて、太郎の温もりを感じていた。

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