ショートストーリー ハムチーズサンド

パンはスッと溶けていく。
柔らかなパンに対して、濃厚チーズと滑らかなハムが食べごたえを演出している。

私の友人は、よくキャラメルを食べている。
キャラメルが似合う幼い顔と、高めの可愛い声をしている。
そんな彼女は今、父親と喧嘩をしているらしい。

ノックをしないで部屋に入ってきたと、教室に入ってきたときからカンカンだった。
数日たっても続いているらしい。
先日、放課後遊んでいる時、彼女の父親が皆で食べて欲しいとキャラメルクッキーを渡してきた。
彼女は、真っ赤になって怒って父親を追いやっていたが、私にはとても微笑ましく見えた。

私の父親なら、まずキャラメルクッキーだなんて洒落た物は出てこない。
そもそも、娘に叱られたところで気にもしない。
そんな父親を持つ私からすれば彼女の父親は、良いお父さん像そのものだ。
彼女にそう言えば、彼女は不服そうに娘心が分かってないのだと困った顔をしていた。

父親だなんて、そんなものだと二人で笑って、一遊びして家路につく。
父は、まだ帰っていなかった。
毎晩遅く、夕飯もいらないこともある。
今日も夕飯はどこかで済ませてくるそうだ。

ここ数日、父の会社は繁忙期で忙しそうだ。
まともに食事をしているようには、思えなかった。
母が洗い物をする隣で、小腹が減ったと言ってサンドイッチを作る。
ハムとチーズだけの粗末なもの。

それでも、マヨネーズやバターを丁寧に塗ったそれは十分に美味しかった。
断面が見えるように切り、皿に盛る。
お疲れの置き手紙をテーブルの上に残して、残ったサンドイッチを冷蔵庫にしまった。

いいなと思ったら応援しよう!

小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。