ショートストーリー ぽっちゃり猫とマカロニチーズ
チェダーチーズの深い香り。
オレンジ色の濃さがチーズの味の深さを表している。
マカロニからチーズソースが伸びる。
ふりかけたチーズとパン粉の焦げ目が、食欲を促してくる。
冬の寒々としているビーチが部屋から見える。
夏には砂浜が見えないくらいの人で溢れていたのに、今は人っ子一人見当たらない。
沈む夕陽を見ながらランニングには、ピッタリの場所。
少しの寂しさが漂う雰囲気は、浜辺を走る僕を肉体を鍛える孤高の戦士にさせる。
彼女には、そのかっこよさが分からないらしい。
ヒーローに憧れるのも程々にと笑われた。
こんな反応を示していても彼女は、僕の趣味を理解してくれている。
リビングに飾っているアメコミヒーローのフィギュアを丁寧に扱ってくれる。
埃がしないように拭き取る作業も手伝ったくれたり、掃除の邪魔だと邪険にしたりすることもない。
とはいえ、もう片方の愛するカノジョは僕の趣味には目もくれない。
ふとした拍子に落ちた僕のフィギュアで、遊んでいたり、わざわざフィギュアとフィギュアの間を通って近道したり。
心臓に悪い動きをする。
毎回、怒ろうと思っても可愛くて怒れない。
今日もカノジョは僕が帰ると、キャットタワーの一番上からフィギュアを置く棚に飛び移る。
ふわふわの白く長い毛を引っ掛けもしないで、フィギュアの間をすり抜けて、僕の足元にやってくる。
カノジョと名前を呼ぶと、猫は白くてふわふわと毛が揺れるしっぽで返事した。
カノジョは僕が守る。
と言いたいがために付けた名前を猫も同棲する彼女も気に入っている。
カノジョを守るために、まず取り組んだ体作り。
日々、脂肪燃焼に励む。
今日も夕陽で赤く染まった海を見ながら、よく走った。
それでも、体型はあまり変わらない。
彼女がご飯の用意が出来たとキッチンから声をかけてくれた。
僕はカノジョとテーブルに座る。
今日もお疲れ様と、満面の笑みの彼女。
テーブルには彼女の故郷の味。
マカロニチーズが大皿に盛られていた。
彼女の故郷、アメリカンサイズのそれは見ただけで食欲に直接語りかける。
お腹が減っているのにも関わらず、さらにお腹が減る。
献身的な彼女の行き過ぎたカロリーの応援に、僕は今日も応える。
いつの間にか、ビッグボディになってきたカノジョも、真っ白で大きなお腹を僕に見せてくれた。
広い面積に、カノジョは僕が守らなくてはと俄然やる気になる。
今度、彼女とダイエット料理を一緒に作ろうか。
そんなことを考えながら、愛情深い濃くのあるチーズソースを味わっていた。