ショートストーリー かき氷
本格的な夏が来たらどうなってしまんだろう。
途中で入った喫茶店でそんなことを考えていた。
注文したかき氷は、予想より遥かに大きかった。
運動不足解消のため散歩に出掛けたのは、良いが景気のよく輝く太陽には勝てなかった。
どこかで一休みしようと駅前を散策し、氷の
字を掲げていた古い喫茶店に入る。
愛想の良いおばさんが奥から出てきて、表の看板に書いていたイチゴのかき氷を頼んだ。
古い看板に似合わない新しい型の電動かき氷器の前に、おばさんが立ちガラスの器をセットする。
ガリガリと音をたてて出てきたかき氷は、雪のようにフワフワだった。
梅をつける瓶に入った赤いシロップを取り出し、練乳をかけて出してくれた。
近くで見ると、苺の粒がゴロリとフワフワの氷に沈んでいる。
瓶といい、苺といい、もしかしたらお手製のシロップなのかもしれない。
そう思うと、フワフワのかき氷の美味さは倍増した。
溶ける氷と残る粒が絶妙だ。
スゥッと舌で消えていく氷の感覚が面白くて、口へ運ぶスピードも早くなる。
調子に乗りすぎて、キーンと冷気が頭を刺してきて、思わず固く目を瞑る。
何度か冷たさに頭を抱えていると
「今日は暑いですねぇ」
とおばさんは、カウンターでコーヒーの用意をしながら言う。
ただの世間話だが、汗をかいた私には実感がこもって聞こえた。
「ええ、本当に。おかげでかき氷が美味しいですよ」
そう言った時には、大きいと感じたかき氷を半分以上も平らげていた。
それでも、まだまだ欲しくなるスッキリした後味だ。
「他のお客さんにも人気なんですよ、うちのかき氷。思い切ってかき氷器を買って良かったわ」
おばさんは、そう言うとサービスだと言ってホットコーヒーを出してくれた。
最後のベショベショに溶けた氷を飲み干し、コーヒーに手をつける。
ホットコーヒーは、冷えて感覚のなくなった舌をほどよく溶かす。
甘いシロップとコーヒーの苦味が下の上で交わってそれも味わい深かった。
会計を済ませて、喫茶店を出る。
「またお越し下さい」の声と共に、手を振って見送るおばさんがドアが閉まる直前に見えた。
人気があるのは、かき氷だけじゃない。
そう直感する。
夏の間の散歩の楽しみが増え、ご機嫌で帰路につく。
帰りは、日差しがそれほど気にならなくなっていた。
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