ショートストーリー 桜餅

とろっとモチっとした薄ピンク色は、あの子のほっぺたみたいだった。
桜の花が咲く前に、引っ越すあの子。
家の都合だと言っていた。

毎日一緒に学校に行って、遊んで。
来年の今頃、一緒に卒業していると思っていた。
寂しいけれど、引っ越すことを伝えてくれたあの子の方が泣きそうで。

お別れの前に、楽しい思い出を作ろうと僕は言った。
休みの日になったら必ず遊んだ公園に集まって、お母さんに買ってもらった桜餅を並んで食べた。
タンポポも咲いてつくしも伸びているのに、桜の木はまだ枯れたまま。
桜餅からにおう桜の香りで、二人で花びらを集めたことを思い出す。

そこから思い出話に花が咲いて、夕方まで話をしていた。
空が赤くなるのに気が付くと、プツリと話が途切れた。
夕焼けを二人で眺める。
没んでいくのが恨めしくて、唇を噛むのも一緒だ。

太陽の影が揺らめいて、いよいよ帰る時間になる。
離れる前に、また会うことを約束した。
それでも離れ難くて、僕はあの子の頬に口を押し付けた。
恥ずかしくて逃げるようにして帰る。
あの子から、自分と同じ桜の香りがしたのが頭から離れなかった。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。