ショートストーリー 豆ご飯とリコーダー

艶のあるグリンピースがご飯にまぎれてキラキラ光る。
シワ一つない鮮やかな緑は、宝石みたいだ。
塩気で引き立つご飯と豆の甘さ。
炊きたてご飯との繊細な甘さの織り交ぜ合い。
この味わい深さを楽しめるのは、深さを知るものの特権。

きれいに残ったグリンピースを眺める。
教室に残って、絶対に食べないという意思を持って座っているだけ。
給食が終わって昼休みの鐘が鳴ると、クラスメートは一斉に運動場へ飛び出していった。
比較的大人しい子は、教室に残っているものの、どの子も広い教室の端っこで机を囲んでお喋りを楽しんでいる。

私の周りには、誰もいない。
先に行ってるねと友達は皆、運動場に行ってしまった。
薄情な奴らだと思う。
けれども、見られていたところで食べる気はない。
友達の貴重な休み時間を奪わなくて済んだと考えれば、どうということではなかった。

私は黙ってグリンピースと対峙しているが、昼休みは学校中が騒がしい。
廊下からも楽しげな声が漏れている。
グリンピースを転がして遊んでいると、どんな声より、ひときわうるさい声が近づいてきた。
お残しを許さない熱血担任教師と、クラスでも随一のわんぱく小僧のダイスケくん。

ダイスケくんは先生に憎まれ口を叩きながら。
先生はダイスケくんに小言を言いながら、教室へ戻ってきた。

「ちゃんと練習して来ないから、何度も再テストを受けなくちゃいけないんだぞ。先生、職員会議に行ってくるから。先生が帰ってくるまでに、ちゃんと練習しとけよ」
先生はダイスケくんの返事も聞かずに、走ってどこかへ行ってしまった。
きっと職員室だろうけど、いつも廊下を走るなと言っている先生が首から下げたホイッスルを揺らして走るのは、面白かった。

クスリと先生を笑ったつもりが、ダイスケくんは自分が笑われたのだと勘違いをした。
「何笑ってんだ」
と目をつけられてしまった。
私は、焦りながらも弁明する。
ダイスケくんは、ふうんと目を細めて疑ってかかっていたけれど、何度も謝ると許された。

そして今度は、私が残したグリンピースを見て子供だと馬鹿にしてきた。
ムッとした。
だってダイスケくんは、先々週のリコーダーのテストですら、ちゃんと準備をしなかったのに。

いつもの私なら、このわんぱく小僧に対して、強く出ることはないけれど、この日はなぜか強く言い返すことが出来た。
ちょっとした言い合いが続いて、注目を浴びていた。
その視線で我に帰って、ダイスケくんに
「練習した方が良いんじゃないの? 再テストの再テストってことは、全然、覚えれてないんじゃない?」
とそっぽむく。

ダイスケくんは、あからさまに図星をつかれた顔をしていた。
けれど、ダイスケくんだって言われっぱなしじゃない。
「お前こそグリンピース早く食えよ」
とつっけんどんな態度をしてくる。

コロコロ転がしながら、食べるよと言ってみるけど勇気は出なかった。
ダイスケくんは、リコーダーの小テストの練習を始める。
必ずファのところで詰まって、パピょーと気の抜ける音がした。

周りで聞き耳を立てていた子達は、クスリと笑う。
ダイスケくん、真っ赤な顔で必死に楽譜を見て練習していた。
自業自得だとは思ったけど、応援する気持ちはあった。
危うげなファの音でグリンピースを食べる。

何度か繰り返すと、最初は無反応だったダイスケくんも気が付いたみたいだった。
二人で、リズムに合わせて苦手を克服する。
グリンピースが最後の一粒になったときには、少し名残惜しくなっていた。

その時の思い出があるからか、グリンピースは音符に見える。
噛むとプチッと潰れる感覚は、音が無いのに音が聞こえるようだった。
夕飯に豆ご飯を出す。
夫も懐かしいと喜ぶ。
鼻歌であの小テストの課題曲を歌いながら、手を合わせて食べ始めるのだ。

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