ショートストーリー 太巻き寿司
年に一回。
食べにくい太巻きを静かに味わって食べる。
それが年に一回。
豆は撒いていない。
不思議な行事だし。
方角に意味なんてあるのか分かったものでもない。
それでも、楽しんでしまう。
毎年、バリエーションが増える太巻きを食べる。
しずしずと。
豆は撒いていない。
今年は南南東。
貼ったばかりの人気漫画のポスターに描かれたキャラと目が合う。
鬼のように強い彼らも、私が食べることであやかられているのだろうか。
だとすると、余計なお世話のような気がして笑えてくる。
短くなる毎に、後ろから飛び出る具。
その尻尾を全て口に押し込む。
その時ばかりは上を向いて、これまで以上に口を大きく開き間抜けな顔をする。
やっと飲み込んで、一息つくとポスターに描かれたキャラとやっぱり目があった。
さっきまで押し殺していた笑いが押し寄せた。
豆がなくとも福はきた。
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![小早川 胡桃](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/28611880/profile_70e2b6959c2c59abde67a9730338c3d9.jpg?width=600&crop=1:1,smart)