ショートストーリー 太巻き寿司

年に一回。
食べにくい太巻きを静かに味わって食べる。
それが年に一回。
豆は撒いていない。

不思議な行事だし。
方角に意味なんてあるのか分かったものでもない。

それでも、楽しんでしまう。
毎年、バリエーションが増える太巻きを食べる。
しずしずと。
豆は撒いていない。

今年は南南東。
貼ったばかりの人気漫画のポスターに描かれたキャラと目が合う。
鬼のように強い彼らも、私が食べることであやかられているのだろうか。
だとすると、余計なお世話のような気がして笑えてくる。

短くなる毎に、後ろから飛び出る具。
その尻尾を全て口に押し込む。
その時ばかりは上を向いて、これまで以上に口を大きく開き間抜けな顔をする。

やっと飲み込んで、一息つくとポスターに描かれたキャラとやっぱり目があった。
さっきまで押し殺していた笑いが押し寄せた。
豆がなくとも福はきた。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。