ショートストーリー 冷やしパイン

果物だと油断して思いっきり噛じる。
口いっぱいに頰張ったパイナップルは、頭をキンと刺激する。
痛さの合間に、トロピカルな甘さがじわじわと舌に広がり甘さも増していった。

食べ尽くした屋台の濃い味付けを、花火が始まるまでにリセットしてくれるのが冷やしパイン。
友達皆で、並んで空を見上げて、首を長くして花火を待つ。
カップル同士なら連絡くらいは取り合っただろうけど、特別に示し合わせたわけではない。
祭りに来れば会える。
皆、そう思って顔を合わせたときのリアクションも特に代わり映えはしない。
朝、教室で会うのと同じ。

いつの間にか、姿が見えなくなったうぶなカップル。
兄弟思いの優等生も家に帰る。
女子は、別行動。
残った仲間は、むさ苦しい男だけだと笑いあった。

川の土手に一列に並んで、冷やしパインで涼をとる。
誰かが頭を押さえると、連鎖反応を起こしたように四人全員で、冷たいパイナップルに呻く。そして真似するなと言い合い笑う。

突如響く音と、闇に咲く光で静まり返る。
地を這って腹に響く打ち上げる音と、パラパラと光が落ちてゆく音だけになる。
仲間はすぐ隣にいるはずなのに、自分一人になったような感覚になる。
空を見上げながら、皆と揃いの冷やしパインを噛じる。
びりびりとパイナップルの酸で舌がしびれる。
空に広がる花火を口に入れたみたいで、思わず笑ってしまう。

発想と同士にフッと声に出ていたと思うが、花火の音にかき消され、一人笑ったことは誰にも知られることはなかった。
寂しさで夏が終わりを感じた。
さっきまでのくだらないやり取りが、あと何回出来るのだろうか。
ぼんやり考えつつ、最後の一口を口におさめた。
襲い来る冷たさに頭をおさえる。
隣を見ると、仲間達も痛そうに頭を押さえていて、なぜかホッとした。

沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。