ショートストーリー レーズンバターサンド
クッキーの軽さをもったりしたバタークリームが受け止める。
時々レーズンが、プチプチと潰され熟された香りを纏わせる。
絶妙なバランスで一つにまとまっているから、魅力が光る。
「お母さん! これとか良いんじゃない?」
「派手ねぇ。もう少し落ち着いた色のほうが良いんじゃないかしら?」
「若い感性を取り入れるのも良いんじゃないか?」
「じゃあ、決まりね」
「次はコレ」
「コレも……派手ねぇ」
「コレは、母さんの気に入ったものにすれば良いんじゃないか」
「ならコッチにしましょうよ」
「ものたりないデザインだけど、まあいいか」
とんとん拍子に決まる買い物。
運転していた父親は、寄りたいところがあると断ってから菓子屋に寄る。
母娘が車で待っていると、レーズンバターサンドを買ってきて、何も言わずまっすぐ家へ車を走らせた。
帰宅して、すぐに買ったばかりのソレを三人で取り付けて眺めた。
リビングにかけられた新しいピンクの水玉カーテンは、風で揺れている。
カーテンは母親の言ったとおり派手で、リビング内で一番目を引く。
しかし、部屋を明るく見せているのも確かだった。
心なしか三人の気持ちも、弾んでいるようにも見える。
母親も、満足に笑うとお茶の用意をし始めた。
「前より明るくなったねー。お父さんが、カーテンにカレー引っ掛けた時は、どうしようかと思ったけど。結果オーライだね」
母親の入れたお茶が冷めるのを待つ間、娘はレーズンバターサンドを食べる。
「そうねぇ、お皿も駄目になったけど。おかげでそっちも新調できたしねぇ」
父親が肩をすくめて「わざとじゃないんだ」とだけ言うと、当たり前だと母娘は笑う。
「まあ、お詫びの菓子折りも貰ったからね」
「そうねぇ」
母娘はクスクス笑う。
父親は、小さくなりながらバターサンドを噛じった。
クリームに塗れて現れるレーズンを、自分と重ね見た。
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