ショートストーリー 魔法使いと十段バーガー

皿の上でグラグラとバランスをとるハンバーガー。
とろけたチーズがハンバーグをつたっている。
チーズは上から一段、二段とハンバーグの階段を降りていく。
黄色い雫からは十段目は遥か下だ。
一番上は、帽子みたいに被せられたパン。
一番下は、肉汁とチーズが染み込んだパン。
二枚のパンは、申し訳程度に顔をのぞかせていた。
上から一気に三段目までナイフを通す。
三段のハンバーグは、ギュッギュッと噛むごと肉汁を出した。
熱い肉汁は、口の中でチーズをさらに溶かしまろやかな後味を残した。

よく晴れた真っ昼間。
魔法使いは、キッチンでガチャガチャと賑やかに料理をする。
時々、何かを指示するような強い口調が聞こえる。
すると、物音は一層大きくなった。
もちろん魔法使いの家には、魔法使い一人しか住んでいない。
魔法使いの彼女は、料理だって魔法を使う。

その日の彼女は、とてもイライラしていた。
魔法を使って命を吹き込んだ料理道具達に八つ当たりするくらい。
それも一度や二度ではない。
もう三度も道具達は、彼女に活を入れられている。

イライラから産まれた命は荒々しい性格になる。
ミンチを捏ねていたマッシャーは、我慢ならず小麦粉の袋を魔法使いに向かって飛ばす。
マッシャーは、持ち手の部分をバットのように振りかぶり、開けっ放しの小麦粉の袋を強く叩く。

瞬間、あたり一面真っ白になり、働いていた道具達も魔法使いもびっくりした。
そして、野球ボールのように、うまく孤を描き飛ばされた小麦粉の袋は魔法使いの顔にクリーンヒット。
ギャッ! という悲鳴の次に顔を真っ白にした魔法使いは、今度は前が見えないと大騒ぎした。

魔法使いが騒げば騒ぐほど、どんどん部屋の粉っぽさは増して、どんどん白くなる。
粋のいいボールもフライパンも包丁もまな板もあっちこっちに動き回る。

誰のせいだ、あいつがやった。
料理道具達は、大捕物だと騒ぎに騒ぐ。
騒ぎがおさまったのは偶然だった。
道具達がぶつかりあったことで窓が開いて、粉っぽさが消えてからだった。

粉まみれで真っ白な魔法使い。
そして、粉まみれで真っ白な料理道具達。
可笑しくて怒るに怒れない。
マッシャーも笑いながら謝った。

だが、笑うどころか怒ることもしない魔法使い。
どうかしたのかと、魔法使いを料理道具達が取り囲む。
すると、魔法使いはみるみるうちに泣き出した。

「なんで私は、いつもうまくいかないの! なんで格好良くできないの!」
魔法使いは大粒の涙を流しながら、わんわん泣く。
なんでも、片想いの人間にフラレたのだとか。

それもデートに誘い、得意のハンバーガーを作ると言っただけで、魔法使いなら淑やかにハーブなんかを食すものだろうと、嫌な顔をされたらしい。
確かに、頭を使う魔法使いの仲間には、そういう爽やかな気分にさせる食べ物を好むものもいる。
だが、そうでないものだって同じくいるのだ。

魔法使いは、自分の見る目の無さにイライラして、信じてきたものに裏切られた気持ちでクサクサしていた。
料理道具達は、肉を捏ねるのも大好きだと慰める。

少し粉っぽくなった材料を伸ばすために、材料を継ぎ足す。
包丁とまな板は玉ねぎを小さく切り、マッシャーはミンチを捏ねる。
フライパンはハンバーグを焼き、フライ返しは焼けたハンバーグにチーズを乗せる。
各々自分の働きをして、いつもより高くパンの上にハンバーグを積み上げた。

十段重ねのハンバーガーは、涙が止まらなかった魔法使いに泣く暇も与えないほどに、食べるのに忙しい食べ物だった。
バランスが取れずに、ゆらゆら揺れる。
早く食べなくては冷えてしまう。
それでも、泣くことを忘れるくらい美味しいものには違いなかった。
最後の一枚を食べる頃には、男の好きだった箇所さえ忘れていた。

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