ショートストーリー ピーマンとツナと塩昆布

料理らしい料理を作ったのはコレが初めて。
切って炒める。
それだけで美味しかった。
一緒に食べた妹は、とても喜んでいた。

始めての料理は、楽しかった。
何を作っても、家族は美味しいという。
慣れてくると何も言われなくなる。
それどころか、ご飯まだ?
なんて聞いてくる始末だ。

あんなに可愛かった妹は、今じゃふてぶてしく四つ上の僕より強そうになった。
いや、間違いなく強い。
口喧嘩も丸め込まれ、本気の肩パンは涙目になる。

「お兄ちゃん、ご飯」
昔の癖で「お兄ちゃん」なんて呼ばれることだけが、自分が妹よりも年上であることを自覚させる。
上下関係は、もはや逆転しているが。
「たまには自分で作ればいいのに」
「あ"?」
小声で言ったのに、聞こえていた。
ゲーム画面から目を離し、スッピンで睨んでくる。
怖くなって、キッチンへ逃げんこんだ。

そうは言っても、面倒くさいことに変わりない。
今日は手を抜くかと、ピーマンだけ冷蔵庫から取り出した。

切って炒めるだけ。
インスタントラーメンは舌打ちするし、混ぜるだけのスパゲティも肌に悪いと怒られる。
ワガママだ。
切って炒めるだけなのに、一切やろうとしないし。
それでも結局、作ってあげるんだから甘やかしてんなぁと思う。
器にもって、妹を呼びに行く。

ダルそうな返事をしてやってくる妹。
席につくとすぐに、炊きたてご飯と一緒に食べる。
無言で。
シャキシャキとピーマンが咀嚼される音だけ聞こえる。
感想くらい欲しいけど、聞くときっと怒られる。

妹からの感想は諦めて自分で食べてみる。
味見した時と同じ味がする。
美味しいけど、それ以上もそれ以下もない。
可もなく不可もなく。
味気ないピーマンを口の中で、ひたすらすり潰す。

ひょっとしたら、妹もこんな気持ちなのかもしれない。
もう少し、頑張って作っても良かったかな。
負の感情が溜まりすぎて、さっきまで美味しかったツナの油分も、なんだか気持ち悪くなってきた。
重いため息が出てしまう。

「ちょっとため息とかやめてよ。せっかく美味しく食べてるのに、美味しくなくなるじゃん」
妹が、口元にご飯粒をつけてそんなことを言う。
適当に流そうとしていたけど、そうもいかなかった。
「美味しいの?」
妹は心底鬱陶しそうに眉をひそめる。
「美味しいけど? なに?」
なんだ、美味しいのか。
無言で食べていたのは、夢中で食べていたせいなのか。
そう思うと、妹の口元のご飯粒も可愛く見えて笑えてきた。
「なに笑ってんの? キモイよ。ご飯おかわり」

ムスッとしながら、空の茶碗を僕によこしてくる。
自分でやれよと思っても、抵抗はしない。
ただ
「ご飯粒ついてるよ」
と笑ってやった。
口の中に残る昆布の塩気で、僕の食欲も俄然湧く。
妹の分と自分の分のおかわりをよそって、二人で無限にピーマンを食べた。

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