ショートストーリー ジンジャーブレッドマン

生姜の辛味が半分は甘みに溶けて、半分は刺激になる。
シナモンの強い香りも混じれば、クリスマスの味がした。

ニッコリ笑った顔がアイシングされ、チョコレートの靴を履いているジンジャーブレッドマン。
可愛いけれど、子供の頃は苦手だった。

スパイシーな味も、可愛らしすぎる見た目も。
あんなに、可愛いと食べるのがかわいそうになる。
そう思いつつ、今にも動き出しそうなジンジャーブレッドマンを今年も手に取った。

毎年、家族で作るジンジャーブレッドマン。
この時期ばかりは、ママと喧嘩してても幸せに笑った顔を描く。
今年は仕事でいないパパも昨夜のうちに描いたと、ママは言う。
皆のところにサンタが来ることを願って描いたと、ママからの言伝てで兄弟達の背筋がピンと伸びる。

ママから教えてもらいながら皆、笑顔で笑顔を描く。
楽しい気持ちがジンジャーブレッドマンにも乗り移っていた。
もちろん今年もその笑った顔を食べると思っていた。
けれど、手にとったジンジャーブレッドマンの笑顔は歪んでいた。

無理して笑っているような。
誰が描いたか分からないけれど、これを描いた家族の中の誰かは悲しんでいる。
それを秘密にしていると直感した。

いの一番に思いつくのは姉。
姉はいつもママと喧嘩している。
派手でオシャレな姉は服を着れば肌が露出し過ぎと言われ、遊びに行くと言えば門限の時間で口論になる。
朝から夜まで、二人は口論を繰り返している。
それでもクリスマスを一緒に過ごす。
どちらも結局、家族が好きなのだ。

だから、姉の描くブレッドマンはいつも弾けんばかりの笑顔だ。
アイシングもカラフルで、一番オシャレなブレッドマンだ。
今年も弟と妹達の一位指名を受け、一番最初に売り切れていた。

ママは、手慣れた手付きで弟と妹達に見本のブレッドマンを描いた。
穏やかな笑顔は、家族を大きな愛情で包み込んでいる母の笑った顔そのものだった。
それを見て、三つ子の弟と双子の妹も、それぞれ個性的でどこか似ている笑い顔を描いていた。

思い出していく兄弟達とママの描いたブレッドマンと、悲しそうなブレッドマンは一致しない。
だったら私の描いたブレッドマンかといえばそうでもない。
手に持ったブレッドマンと同じで、シンプルで、少し下手くそで、一見特徴のないブレッドマンを私も描いた。

でも、私のブレッドマンは下手なりに描いたリボンを付けている。
これにはそのリボンもない。
ボタンだけのシンプルなデザインのブレッドマンだ。

他に誰がと考えていると、息を切らしてパパが帰ってきた。
今日は帰れないかもしれないと、先週言っていたけど、早く帰れるように頑張ったようだ。

パパにおかえりを言ってギュッと抱きしめる。
寂しがり屋なパパが笑う。
「パパの描いたジンジャーブレッドマン、ちょっと下手ね」
そう言うとパパは、はにかんだ。

寂しく笑うジンジャーブレッドマンは、お腹に入れて私自身の笑顔に変えた。
今年のクリスマス味は、今までで一番美味しい味がした。

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