ショートストーリー 卵豆腐

ツルッと素早く喉をとおり喉を冷やす。
出汁と卵の香りが優しく鼻を通る。
食欲のない時でも、二人で一緒に味わえるからと出された卵豆腐は、彼の優しさで揺れていた。
身体が重くて、ずっと寝ていたい。
気分は最悪。
せっかくの休日に、朝からシーツに包まっていた。

そのせいで、朝も昼もほとんど何も食べていない。
彼は、食事の度に心配そうに私の元へやってくるが、相手にするのもおっくうで追い返した。

今は何時か分からないが、窓から見えていた日は沈み暗くなっていた。
いつも優しい彼も、流石に夕飯は一人で食べるのかもしれない。
そう思うと、じんわりと寂しさがこみ上げてきて、鼻をすすった。

月一回、こんな風に当たり散らす彼女の相手なんて、していられないと嫌われたかもしれない。
暗い部屋で、暗い気持ちに浸って、シーツに潜り込み、静かに涙を流していた。

そんな時に、彼が部屋に入って来た。
しゃくりあげる私の声を聞いて、あたふたしているのが暗闇でも分かる。
「大丈夫? 起きられる?」
心配そうな声をかけながら、布団越しに私を優しく撫でてくれる。

その温かい手に惹かれて、私はのそのそとシーツから出た。
まだ残る人寂しさを解消しようと、彼の背中に腕を回して、ギュッと抱き締める。
安心した顔をして彼は、私の頭を撫で返してくれた。

そのあと、一緒に夕飯を食べた。
一歩も歩けないと駄々をこねた私に合わせて、寝室まで持ってきてくれた夕食。
用意してくれたメニューは、どれも喉を通りやすいもので、とりわけ卵豆腐は食べやすかった。
食事のあとは、痛むお腹を撫でてくれて、私はいつの間にか眠りについていた。

いいなと思ったら応援しよう!

小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。