ショートストーリー カニクリームコロッケ
少しばかりの甲殻類の香りが安心するとは思わなかった。
子供の頃、冷凍のカニクリームコロッケが好きだった。
お弁当の時だけ食べれるそれに、特別を感じていた。
普段の食卓にのぼらないそれは、未知の世界が広がっていた。
コロッケとは違う海の香りと、クリーミーなソースから海の向こうを想像していた。
シンデレラが住んでいそうな豪華なお城から、犬を連れた羊飼い、海に佇む小さな家。
きっと、畳の匂いが染み付いた我が家とは全然違うんだと、弁当の隅に入れられた洋食に憧れを詰め込んでいた。
大人になるにつれ、憧れは夢に、夢は現実になり、私は海外留学をすることとなった。
久々の帰国で、母が夕食に出したそれは、一口食べると懐かしくなる味と変っていた。
磯の香りなのに、思い出されるシチュエーションは家族で行った山登りに、遠足で走り回ったどこかの公園の原っぱ。
土臭い思い出ばかりだった。
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