ショートストーリー わたあめ

雲みたいにふわふわの見た目に心惹かれる。
口に入れれば、やっぱり雲みたいにスッと消える。
消えて無くなる瞬間は寂しい。
変わりに夢心地の甘さに幸せが舌に残った。

割り箸に巻きつけられた顔より大きな甘い綿。
妹は上機嫌でかぶりつく。
彼氏と初めてのお祭りデートのはずが、妹同伴なんてと重たいため息が溢れた。

小学生の妹は近頃ませてきて、私に彼氏が出来た事をいち早く感づいた。
父親に甘えてお小遣いを貰って、母をおだててお祭りに行く許可を貰い、私についてきた。

彼氏をひと目見たらすぐ帰る。
妹はそう言って、私と屋台を回る。
一人一本ずつのわたあめを、二人でちまちまと食べる。
途中、妹は学校の友達と会っていたが、結局私に着いてきていた。

姉の恋人のなにがそんなに気になるのか。
冷やかしにしては、悪趣味だと妹に話しかける。
「ぼんやりした姉を持つと大変なのよ」
妹は、ツンとすました表情をした。

確かに呑気なところは否定しない。
でも高校生にもなって、小学生の妹に心配されるほどなのか。
だんだん自分で情けなくなってきた。
ボーッと人の流れに身を任せて、しっかりしなきゃなと自らカツを入れる。

「私も少しはしっかりするね」
そう言って隣にいる妹に合わせて、視点を下げた。
しかし、そこには誰もおらず。
後ろを向けど、前を向けど、いると思っていた妹はいない。

私は、真っ青になって妹の名前を呼んだ。
必死に叫ぶ私は、周りがチラチラと私を見ていることなんて、気にしていなかった。
ただただ妹の名前を呼び、妹の声だけを拾えるように集中していた。
だから後ろから、肩を捕まれて驚いた。
驚きのあまりにわたあめを落とすくらいに。

そこには、友達グループで祭りに向かうと連絡のあった彼氏がいた。
彼に事情を話す。
思いついたままの言葉は、まとまりがなかったけど、一応通じたみたいだった。
ひとまず深呼吸をさせられ、彼は冷静に一緒に探すと言ってくれた。

その言葉に、まだ妹も見つかっていないのになぜか安心出来た。
私は落ち着きを取り戻し、妹の着ている服や特徴を彼に教える。

「お姉ちゃん」
またしても、私の後ろから声がして彼氏の時と同じように驚いた。
振り返れば、妹の姿があった。
私が何処にいたのかと問いかけると妹は
「彼氏が見えたから後を付けてた」
と平然と言ってのける。

私以上に理解が追いつかない彼氏が、私の変わりに妹にどう言う意味か聞き直す。
「私の彼氏、二股かけてそうで怪しかったんだよね。それで今日は私、お祭りに行けないってことにしてカマかけてみたの。そしたら、案の定ってわけ。これだから男って」
妹の恋愛事情に、私は開いた口が塞がらなかった。

私より大人な妹に、なんて声をかけて良いか分からなかった。
だけど、妹は気にしていないようであっけらかんとしていた。
目的も果たしたからと、颯爽と帰っていく。
私の彼氏に、何か耳打ちをしていたけど彼氏に聞いても何も教えてくれなかった。

彼氏は大したことはないと笑いつつ、私のわたあめを買い直してくれる。
なんだか腑に落ちない私。
むくれながらわたあめを食べると、ふわふわの綿が鼻についた。
彼氏は、反対側からわざとらしく同じようにわたあめを鼻につけた。

その時、わたあめ越しに言われたこと。
「妹にも言われたし、一生大事にするから」
三度目の驚き。
彼氏が私の手をギュッと握って持つわたあめは、手から落ちることはない。
変わりに顔が熱くて、わたあめが溶けるんじゃないかと思うくらいだった。

沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。