ショートストーリー エスプレッソコーヒー

眠い……。眠い……。
この悪魔を吹き飛ばしたい。
私は、小さなカップに入った香ばしい香りが濃い液体に悪魔祓いをかけた。

会議は難航。
アイディアは出尽くし、室内はコーヒーの臭いで包まれる。
捻りすぎた頭も溶け出す。
予定時間はとっくに過ぎ、残業時間に突入。
新しい商品開発案を出すために、常に犠牲になる時間に嫌気が指す。

開かずの扉となった会議室に一筋の光が現れたのは、ほんの一時間前。
差し入れされた糖分のクッキーはとうに底をつき、変わりに空いたビニールが散らかっている。
何かが足りない。
でも何かが分からない。
モヤモヤした嫌な気分だけが会議室中に広がる。

喉の渇きと疲労回復と気分転換と現実逃避。
全てを癒やすために一度、私は席を立ちコーヒーマシンの前に立つ。
大袈裟な音をたてて、マシンは凝縮されたコーヒーの汁を出す。
それをボーッと眺める私に、グッタリとしていた同僚が笑う。

そして、会議にない冗談を話し出した。
最初は、聞き流していた仲間達も、だんだんそいつの話に聞き入り、あるところで「ソレだ」と全員の声がハモる。
最後のピースがカチッとハマり皆が喜ぶ。

それからの作業は、早いものだった。
蕩けた脳が眠気を誘うが、そんなものに構っていられない。
エスプレッソを一気に飲み干して、目を覚ます。
濃厚な香りと舌に残る苦味と酸味。
その味は、脳に直接動けと命じてくれるようで、疲れているはずなのに、いつもより早く仕上がった。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。