ショートストーリー フランクフルト

楽しげな思い出が凝縮する味を、パーキングエリアで一人味わう。
パリッと弾けるジューシーな肉。
スパイスの効いた香りとケチャップの酸味マスタードの刺激が、車の出入りの止まらない雑多な雰囲気と妙にマッチしていた。

最初に食べたのは、近所のお祭り。
数ある屋台の中でも人気があって、常に子供達の行列を作っていた。
もちろん私もワクワクしながら、友達と列で並んだ。
お弁当に入っているウィンナーより何倍も大きくて、夢のような食べ物だった。

大人になると、バーベキューで焼いたりもした。
始めての恋人との付き合いで味は、はっきり覚えていない。
ただ、お祭りの味とは少し違っていた。
肉を食べる高揚感は、恋愛のそれにすり替わっていたし、体型も気にしていたから子供っぽい味とは感じていた。

子供が産まれ、母として、妻として、どれもまた同じように経験した。
少し違う風景と似たようなシチュエーションは、ループしているような既視感もあった。
友人が息子に、恋人が夫に成り代わる。
時々、変わらない日常に辟易としていたが、同じくらい幸せを感じていた。

今日は、そのループに変化があった。
息子の大学進学に向けての引っ越し作業が終わった。
息子と下宿先のアパートで別れを告げ、一人高速に乗り込んだ。
運転の疲れを癒やすために入ったパーキングエリアで、お腹を満たす。

肉の焼ける匂いに誘われ、フランクフルトを選ぶ。
後ろに並んだ子供連れの母親が、待ちきれないと騒ぐ子供をいなす。
「お母さん、今度の遠足のお弁当。あのおっきいウィンナー入れてよ」
周囲がクスクスと笑う。
きっと、母親は真っ赤な顔をしているのだろう。
私も私の母親もそうだった。

子供の言動に慌てふためく彼女にも、ループが恋しくなる時が来るはずだと、受け取ったフランクフルトを齧った。

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小早川 胡桃
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。