中小企業の海外展開の事例について
日本の人口減少が進み、国内市場の縮小により売上高減少が懸念される中で、リスク分散の一つの手段として、海外市場への販路開拓を求める方法があります。海外でも評価されるような製品づくりができれば、国内市場に向けてもアピールポイントとなり、他社と差別化できる可能性もあります。
今回は、そのような海外展開を行っている企業の事例を紹介します。
はじめは、群馬県富岡市のこんにゃく加工事業者A社(従業員15名)です。
こんにゃく産業を巡っては、国内のこんにゃくの1年当たり家計支出が1985年に4,161円でしたが、2,023年には1,660円と半分以下になり、大幅な減少傾向になっていると言えます。
この企業は、1,996年に創業し、従来まで主に学校給食などの業務用こんにゃくのOEMメーカーであり、BtoCの小売向け製品の比率は高くなかったものの、他方で業務用こんにゃくの製造・販売で培った顧客のニーズに応える力が当社の強みであると認識していました。
この企業が海外展開を目指すきっかけになったのは、2018年に営業部長に就任した社長の娘のK氏が自社のことをよく知りたいと考え、海外視察やJETROのセミナー受講等に積極的に参加していたところ、海外市場ではグルテンフリーやヴィーガン食が流行していることを知ったことからはじまります。
A社は、群馬県とJETRO群馬が主催するグローバルビジネス実践塾への参加やセミナーに参加するなどして、海外展開への準備を進めていきました。またJETROや自治体が主催する商談会にも積極的に参加し、JETROの専門家からアドバイスを受けながら、商談を進めました。その結果、2018年9月には同社としては初めての海外輸出を行い、エストニアへヴィーガン向けラーメンに使用するこんにゃく製品の輸出につながった。これまで十数カ国(エストニア、イギリス、フィリピン、ドイツ、香港、オーストラリア、シンガポール、スイス、フランス、インドネシア、カナダ、アメリカ等)との取引実績があり、現在も約10か国との取引が継続しています。輸出商品もSoy Nyack(ソイニャック)だけでなく、従来品の玉こんにゃく、しらたき、板こんにゃくへ拡大してきています。
海外展開の課題としては、各国の食品に関する規制への対応や消費者のニーズに合う製品を開発することなどがありました。課題に対しては、K専務のリーダーシップのもと、社内のメンバーに役割を割当て、社内体制を整備したほか、JETROの専門家にアドバイスを受けるなどして対応していきました。この結果、持続して輸出実績ができたことに加えて、社内のモチベーションアップにも繋がり、国内受注の増加ももたらしたとのことです。
【筆者による分析】
○強み:T専務の熱意、社内の若手社員、商品開発力、一貫生産体制
●弱み:大手に較べて低い認知度・生産力・人員体制
□好機:群馬県が日本一のこんにゃく産地、欧米でヴィーガン食の流行
■脅威:国内大手の類似製品、海外製品との競合
続いては、伝統工芸品を扱う企業です。
群馬県は、創作こけし生産が全国生産の7割を占めており、日本一です。群馬県には、大小様々なこけし工房が集積しています。
B社は、群馬県渋川市で豊かな自然の木材を活かして創作こけしを生産しています。当社は、もともとインバウンド向けのお土産需要が中心でしたが、コロナ禍で海外からの観光客減少に伴い法人からの受注減少をきっかけに、海外展開を視野に入れるようになりました。そこで、海外展開に関してジェトロへ相談に行き、そこからセミナー等への参加を行ない、準備を行ってきました。
具体的には、当社が参加したジェトロ群馬のグローバルビジネス実践塾で基礎固め、 TAKUMI NEXT事業(伝統工芸技術を活かして現代の生活様式に合う製品を開発・PR)に採択され、海外展開に向けに商品のPRや見せ方のアドバイスをうけました。商談資料などが調った後は、商談会やバイヤー招聘事業に積極的に参加し米国への輸出を成功させました。
海外展開の課題としては、製品のブランディングの重要性とのことです。国内販売では、競合との価格競争から求めやすい価格設定にしていたところ、現地テスト販売等を通じて、価格とそれに見合うブランディングストーリーやプレミア感を創り出し、それをパッケージやSNS等で顧客やバイヤー等に伝えていくことが重要と感じたとのことです。そこで当社では、専門家のアドバイスを受けながら製品づくりを行うほか、製品の製作風景などを発進するようにしています。
【筆者による分析】
○強み:営業担当H氏の熱意、表彰暦のある製品、一貫生産体制
●弱み:限られた生産力・人員体制、情報発信不足
□好機:原材料産地に近い、群馬県が日本一の創作こけし産地、欧米での日本ブーム
■脅威:創作こけしの認知度が低い
以上の2事例に共通して言えるのは、①海外展開に関して熱意を持ったリーダーがいること、②自社の強みや課題を認識できていること、③地域の強み(機会)を自社に取り込んでいること、④外部の支援機関を上手く活用していること、などがあげられると思います。
②~④は、中小企業診断士の支援・連携できる内容だと思います。海外展開の基本になるのは、企業診断のイロハであるSWOT分析やブランディング戦略策定になります。各国の規制や法令の専門知識は、JETROや中小機構などの専門機関のアドバイスを受けながら、補強していけばいいのではと思います。
現在、「新規輸出1万者支援プログラム」をJETRO、中小機構、経済産業省、中小企業庁が共催して取り組んでいます。このような支援機関のプログラムを取り入れながら、企業支援にご活用いただければと思います。