卒業写真のあの人が今も優しい目で微笑む

ついこの間2022年が始まったかと思えば、もう3月です。あっという間ですね。3月と言えばやっぱり「卒業」です。僕には毎年この時期になると思い出す出来事があります。青春ですね。高校生の頃のエピソードって賞味期限がないと思っていて、あの頃の思い出はいつまでたっても色褪せないと思います。ありきたりな表現ではありますが。と、いうわけで今回は僕が高校生の頃の「卒業」にちなんだ話を。

これは僕が3年生の卒業式の日の話。3年間の思い出が詰まった高校に通う最後の日。卒業生代表として答辞を読むわけでもないのにも関わらず、卒業式の最中、僕は少し緊張していた。(もっとも、僕はおしゃべりが大好きな人間なので答辞を読むぐらいじゃ緊張しない。)
司会の先生が言葉を発する。
「ご起立ください。」
(!!・・・来る!!)僕は身構えた。


何故、そして何に身構えたのかを説明するために場面を卒業式から何日か前に戻す。

それは卒業式の練習中のことだった。式中、在校生、卒業生、ともに礼をする場面が何度もある。だから「礼の練習」は入念に行われた。司会の先生が号令を出し、体育の先生が改善点を言う。それは何度も繰り返された。

「ご起立ください」
「礼」
「ごt〒y%♪k$&席ください」

司会の先生は「ご着席ください」を結構な頻度で微妙に甘噛みする。その噛み方は絶妙で「噛んだよね」と指摘するほどではないが、でも確実に違和感はある。なんか”反応したやつが負け”みたいな噛み方だった。

しかし毎回甘噛みするわけではなく何回かに1回は成功する。そしてその精度は日を重ねるごとに少しずつではあるが高くなっている。僕は高校生活の最後の最後で大切なことを学ばせてもらった。それは泥臭く努力することの大切さだ。きっと毎朝の通勤中の車の中でも、湯船の中でも、布団の中でも「ご着席ください。」と何度も練習をしたのだろう。先生が思い描けばそこはどこだって体育館になったのだ。

そして場面は卒業式に戻る。先生が次に言う言葉は何度も練習した「ご着席ください。」だ。もちろん甘噛みせずに成功するのがベストではあるが万が一ここで甘噛みしたとしてもそれは失敗ではない。どちらの結末を迎えようが、僕は先生の努力を知っているから。そして先生は今までにない程自信に満ちあふれた声で言った。

「お座りください」

?????
逃げた。大勢の前で噛むのが恥ずかしいから。そう。先生は最後の最後、本当の最後にまた大切なことを教えてくれた。

本当にやばいときは逃げてもいい。いや、むしろ逃げた方がいい。

卒業アルバムに写る先生は今でもあの頃と変わらない優しい目で僕に話しかけてくれる。

逃げた方がいいよ。


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