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刀を差して歩く

 久しぶりに山形から東京に行った際、お土産に日本刀の形をした傘を頂き、かなり気に入った。あいにくの秋晴れで傘の必要もないので、駅のコインロッカーに手荷物と一緒に入れようと思ったが、入らない。よし、腰に差していこう。ハロウィンのシーズンでもあるし。その日の服装はスーツだったが、スーツと刀、我ながら中々良い組み合わせでは?と思い、銀座周辺までぶらりと散歩することにした。まぁ傘だけど、腰に差しているだけでサムライ気分である。
 なんじゃ、この人混みは…。鞘が触れぬやう、左側通行に心掛けるが、わざわざ拙者の左をすり抜けようとする無礼者がちらほら。さすが、江戸は人が多いのぉ。しかも、南蛮人もかなりおるではないか。そのうち、コロコロと輪がついた箱を転がす旅人らしき数人が結構な勢いで、向かってくる。咄嗟に避けたが、不覚…拙者の鞘に触れた。ぶっ、無礼者!咄嗟に柄に手を当てだが、忘れておった。今日は本身では無く傘であった…ええい、無念じゃ。こう人が多いと歩くのも一苦労。書を求めて銀座の蔦屋に早く参ろう。何やらここには、古の我が国に関する書も多いと聞く。
 おぉ、ここかぁ。確かに広くて拙者の好きな書が沢山ある。お、ここはサムライの書が山積みではないか。刀もある。ふむふむ、ふむふむ。これは、忍術の秘伝書か。なんとバテレン文字で書かれてあるではないか。この書店も賑わっておるなぁ。人が増えてきた。しかし、さっきから拙者の鞘が人に当たっておる。なんとも江戸は無礼な輩が多いことよ。いや、待てよ、もしや邪魔なのは拙者の刀か。そう言えば、周りには刀を差している者は誰もおらぬ。廃刀令が出たと言うのは噂では無く、誠であったか。やむを得ん、郷に入りては郷に従えじゃ。人々の邪魔にならぬ様に、背中に背負うことにしよう🥷。何やら忍びの者になった気分じゃ。この姿で忍術書を熱心に読んでおると、南蛮人にニコッと笑われたわ。しかし、あの笑みは拙者を愚弄するのでは無いことを感じたぞ。
 再び外に出て歩く。もし、廃刀令が出ておるなら、このまま刀を差して歩くと咎められるやもしれぬ。しかし、刀は武士の魂。何を遠慮することがあろう。お、前から警護のサムライか。右手に黒い棒、腰には短銃か。飛び道具とは落ちぶれたものよ。横目で見ながらすれ違うがお咎めなし。さすがは同じサムライ。武士の情けで見逃してくれたか。忝ない。それにしても疫病が治まったとあって江戸は人が多過ぎて、刀を差して歩くには難儀なところじゃ。

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