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「自分にしか読めない手紙」に初めて出逢った話。

暑さがまだ残る8月の日曜日、娘の姿がぼやけて見えた。

「ひと一人を育てる」というのは文字面だけでは到底表現しきれないほど大変だ。
大変ではない育児などない。

想像して欲しい。

あなたの暮らしに、24時間365日過ぎていく時間にひと一人加わるのだ。

その子は最初は小さくてか弱く、
言葉も通じず世話ばかりかけ、
それでいて言うことは聞かないのである。

ひと一人が新たに生活に加われば、元の生活から"大きく変わる"のだから大変でないはずがない。


とはいえ、今回はその育児の大変さを伝えたいわけではない。

そもそも、妻に言わせてみれば私の関わってきた育児、いや"育児の真似事"なんか「名もなき育児を知らないやつがなにをいうとんねん」と、一蹴されるような程度だろう。

自分にしか読めない手紙

夏休みも終わりにさしかかる日曜日の朝。
テレビに映る24時間テレビの総合司会は、マラソンランナーの様子を実況していた。

この日は妻が用事で朝から夕方まで外出していて、私と娘と息子の3人で過ごす予定。

娘「スーパーボールすくいやる〜」
息子「(僕も)いく!」

最近のポイ、全然破れなくて子どもに優しい

朝から地元の商店街のお祭りに参加し、たくさん汗をかいて帰宅した昼下がりのこと。

「お父さんに、お手紙書いてあげる〜」

そう言って塗り絵をしていた手を止め、持っていた鉛筆でノートに何やら書いていく娘。(3歳ってこんなにスラスラ書けるのか〜)

使わなくなった連絡ノートに書いてくれた

1-2行ずつ書いていく様子をじっと見ていた。
娘はまだ3歳。ひらがなの文字は分かっていないだろう。

識字というわけではなく、それぞれ記号としていくつか覚えて読める時はある。けれど、手紙の文章として文字を書くにはまだまだ先の話だ。

書いてくれた手紙

私「これは何て書いてあるの?」

「お父さん、お風呂一緒に入りたくなくて、キライって言って、ごめんね。」

そうなのである。
最近、娘は一緒にお風呂に入ってくれていなかった。


私「今日は誰が誰とお風呂入るのー?」
娘「ママと入る〜」
息子「ママ」

私「え〜、そしたらお父さんもママとみんなと入ろうかな〜」
妻「断る」



そんな調子で、お風呂から聞こえる賑やかな声を聞きながら、1人食器を洗っているのがわたしにとってのルーティンワークだった。

"お風呂一緒に入りたくなくて、キライって言って、ごめんね"

手紙の冒頭から、そんなことを気にかけてくれていたのかと、クスッと笑ってしまった。

私「これは何て書いてあるの?」

「お父さん、いつもご飯作ってくれて、ありがとう」

我が家では、在宅で仕事をすることの多いわたしがもっぱらご飯を作る。
最近は献立を考えるのが億劫なことに悩み、朝は冷凍食品の焼きおにぎりに助けられていたところだ。

大人も大好き、うまいのよ。

かわいいな、明日も明後日もご飯作ってあげるよ〜と、微笑んだ。

私「これは何て書いてあるの?」

「お父さん、おかし買ってくれて、ありがとう」
「お父さん、膝の上に乗っけてくれて、ありがとう」
「お父さん、服乾かしてくれて、ありがとう」
「お父さん、保育園送ってくれて、ありがとう」
「お父さん、お仕事いっぱいしてくれて、ありがとう」

ここで私は気づいた。
近くにいるはずの娘の姿がぼやけてきた。
おまけに胸がしめつけられる。

ページ一面に書かれているであろう、娘の、父に対する「ありがとう」の手紙の内容を、途中から真正面で受け取るどころではなくなった。

これまでの娘の成長の走馬灯が頭の中を駆け巡り、会社をやめてから仕事に没頭してしまい、あまり子どもたちと遊んであげられなかったな…という心の痛みがうずいた。

そんな父親にも…そんな父親なのにも…関係なく、娘にはたくさんの「お父さん、ありがとう」が見えていたのか、そういう風に思ってくれていたのか、と娘の気持ちを想像すると、涙を堪えることができなかった。

働く父親の悩み

少しだけ回想。
娘が生まれたのは2019年の秋。
この頃、私はまだ東京に住んでいて、会社員だった。

2021年の年始頃に、息子を授かったことが分かり、妻の実家の近い兵庫県に移住した。

仕事を継続してリモートワーク…というわけにも行かなかったので会社を辞め、個人事業主として働き始めた。

個人事業主になり、柔軟な働き方に変えてからは会社員の頃より子どもたちといる時間は増えたとは思う。

だがしかし、仕事のメリハリはない。
納期前は忙しい上に、自分の代わりはいない。
やりがいはとてもあるが、時に「食べていくとは大変だ」と思うこともある。

とはいえ今、仕事は楽しい。
ひと昔前に「24時間戦えますか?」というCMがあった。

今でこそ「そういう時代もあった」と時代錯誤的なCMのコピーかもしれないが、ともすればずっと働いても不思議ではないくらい、今の働き方は面白さ〈interest:興味深い方〉がある。

だから、つい仕事を優先してしまう自分と、子どもたちとの時間を大切にしたい自分で葛藤していることもまた日常茶飯事なのである。

父親ってのは難しい。だから葛藤もしながらでいい。

一連のできごとをこうして文章にすると、少し自分を客観視もできた。

(書き上げるまでに娘の文章らしきものによる『ありがとうの波状攻撃』をまともに受け、3回泣いたが…)

今回殴り書きは、誰に向けて書いたものではないし、特にオチもない。
書いたというより吐き出したに近いだろう。

せめて、同じように子どもを育てながら働くパパさんと、少しばかり気持ちが共有できたら嬉しい。

このサントリーのCMのように、働きながら子育てをしている無言の父たちは多いだろう(そういう時代だ)

今後も仕事と家族で葛藤する瞬間は幾度も訪れるのだと思う。
その度に、辛くなる時もあると思う。

ただ1つ、今回の出来事から得られた教訓は

「子どもたちは親をよく見てる」ということ。
そして同じだけ、私たち父親は子どもたちと向き合うべきだということ。

今回のように、娘や息子に手紙を書いてもらうのもいいかも。子どもたちの気持ちを知る機会になって、とてもよかった(ハンカチをお忘れなく)

つい言うことを聞いてくれないと叱ってしまいがちの毎日ですが、子どもたちの気持ちを知れば、もう少し優しくなれるかもしれません。

少なくとも私は、心が動きました。
仕事も大事だけど、子どもたちの気持ちを今より大事にしたいと、そう思える暖かい手紙だった。


回想終わり。

今回のオチ:手紙で1番涙したところ

シーンは戻り、娘による手紙の解説。
もう、かなり涙が溢れている。

私「これは…なんて書いて..あるの?」

「お父さん、ママと結婚してくれて、ありがとう」

ツツッー。

娘よ、それは反則だぜ。

おしまい。

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