見出し画像

山田朗の『昭和天皇の戦争認識』をどう読むか⑦ 改憲・再軍備への意欲あり

 講和発効以前から天皇は田島に対して改憲・再軍備についての自説を語っていた。一九五二年二月一一日、天皇は、「私は憲法改正に便乗して外のいろいろの事が出ると思つて否定的に考へてたが、今となつては、他の改正は一切ふれずに、軍備の点だけ公明正大に堂々と改正してやつた方がいゝ様に思ふ」と再軍備のためには一点にしぼつた改憲論について述べた。そして、二月一六日には、このことを吉田茂首相に伝えたい、と田島に語り、田島は「口止めの方よろしい旨」を答えているが、それでも「吉田首相に手紙を書きました時、再軍備論の事を一寸ふれました」とも言っている。

(山田朗『昭和天皇の戦争認識 :『拝謁記』を中心に 』新日本出版 2023年)

 昭和天皇と言えば戦後は大人しく生物の研究でもしていたと思い込まされていた人は少なくないと思う。正直に言えば私もその一人だ。昭和天皇にいくつもの顔(影武者?)がある事も知らなかった。そしてこのようなストレートな政治参加の意思があり、改憲・再軍備への意欲と具体的な働きかけがあったことなど全く知らなかった。

 例えば私が一個人として岸田首相に手紙を書くことはできる。しかしそんなものは秘書が読んでおしまいだろう。国民の一意見として参考にさせていただくこともなかろう。

 しかし昭和天皇なら?

 ところで、再軍備に際しては、新日本軍の司令官はどうするかという問題について、かつて警察予備隊の司令官については、天皇は「それは元首象徴だらうネー」と当然、自分が就くべきものと語っていた。

(山田朗『昭和天皇の戦争認識 :『拝謁記』を中心に 』新日本出版 2023年)

 元首象徴?

 

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi076.pdf/$File/shukenshi076.pdf

 天皇が元首かと問われれば、どうもそうではないような気がするとしか答えようがない。しかし昭和天皇の中では天皇の地位は元首なのである。これは名誉顧問とか最高なんとかとかシニアなんとかとかエグゼクティブなんとか格好つけの役職のように元首によりあえかな象徴という羽根飾りをつけて格上げしたような認識なのだろうか。

 このやる気満々さが気持ち悪い。取締役から外れて相談役になった元社長がいまだに会社は自分のものだと思い込んで取締役会議を仕切るようなものではないか。

 やはり天皇の関心は、「統率」=統帥権にあり、首相が司令官となると「幕府になる」、統帥権は「元首がもつべきもの」だが、軍人が元首を利用したという「前例」が悪いので反対されるが、「正常の有様ならむしろいゝ」との見解を示した。統帥権は元首が保持すべきもので、日本の場合、昭和天皇が言うところの「元首象徴」が保持しないと、「幕府」が生まれてしまうという理解である。

(山田朗『昭和天皇の戦争認識 :『拝謁記』を中心に 』新日本出版 2023年)

 ここで言われているのは鎌倉幕府である。歴史観がそのまま「世の亂と共に政治の大權も亦其手に落ち凡七百年の閒武家の政治とはなりぬ」の軍人勅諭である。

 冷静に考えれば確かに一番切り替えが難しかった人が昭和天皇自身であったこともまた確かなことであろう。今まではこうでした、これからはこうですと、そうそう簡単に切り替えられるものではないだろうなということは理解できる。件の相談役もただ切り替えがうまくできないだけで全然悪気はなく、寧ろ良かれと思って吠えているだけなのだ。

 しかし、だ。

 これは一企業の老害の話ではないのだ。

 それに人間宣言は何だったのか。

朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(アキツミカミ)トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ。

https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/056/056tx.html

 いや、この時点では退く気はないな。

 [天皇][吉田首相は]あくまでも再軍備は経済力が許さない一本調子だが、私はM.S.A.[相互防衛援助協定]を受ければ吉田のいふ国力の負担はなくなるのだから、あまり行きがかりに拘泥しないで再軍備するのだ、然し憲法の改正が六ケしいからといふ風にいつて、改進党とも話し合へばいゝと思ふが、絶対にそんな風はないとの御話。

(山田朗『昭和天皇の戦争認識 :『拝謁記』を中心に 』新日本出版 2023年)

 ここではたと気がつく。

 再軍備、この意味するところは何か?

 つまりそれは既に原爆が使用された後の世界の話である。

 果たして昭和天皇はどこまでの軍備を想定していたのか?

 より具体的に言えば昭和天皇は元首象徴として新日本軍の司令官となり、核攻撃能力を保有しようとしていたのだろうか?

 それまだ誰にも解らない。

 何故ならここまでしか読んでいないからだ。

[余談]

 しかし驚くね。

 色々ありすぎて。

 



いいなと思ったら応援しよう!