五世紀の赫連勃勃十三階 芥川龍之介の俳句をどう読むか161
時雨るるや屡々暗き十二階
大正八年十月三十日、小島政二郎宛の葉書に添えられた句だ。(これを大正九年のものとする説もある。)
この十二階というのは冠位のことではなくておそらくは「浅草の十二階」のことであろう。
五胡十六国時代に匈奴の皇帝赫連勃勃の建てた城の北塔にそっくり。
こちらの北塔は高さ一四丈五尺とあるので43.9メートル、十三層からなる。設計したのは恐らく中銀カプセルタワービルを設計した黒川紀章……。
やがて「浅草の十二階」関東大震災では崩壊する。
時雨るるや屡々暗き十二階
この暗きというのはなんだかわかるような気がする。巨大なものが暗がりにあると怖い。だから東京タワーなどもライトアップし、高層ビルで働いている人は遅くまで残業するのではなかろうか。
しかし「浅草の十二階」なき今、この句はどのようなテイストで読まれているものだろうか。
タワマンに空き部屋出たり十二階
こんな感じだろうか。
やすやすと高速見下ろす十二階
みたいな気色は東京では珍しくもないけれど、当時の十二階というのは本当に特別な建物であったはずだ。今では六十階のタワマンもあるので感覚が麻痺しているが、赫連勃勃の建てた城の北塔くらい威圧感があったのだと思う。それが時雨て薄暗ければなかなか鬼趣のあるところである。
というよりまず赫連勃勃がすごいな。