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芥川龍之介 大正四年五月十三日 短歌ニ十九首
枕辺の藤の垂花ほのぼのと計温表にさき垂りにけり
かすかなるかなしみ来る藤浪のうすむらさきをわが見守る時
水薬の罎にかゝれる藤の花わが知らなくにこぼれそめけり
人妻の上をしのびて日もすがら藤の垂花わが見守るはや
ほのぼのと恋しき人の香をとめば藤はかそけく息づきにけり
藤の花しらがふしほのありしかばよろぼふむみがねあさましきかな
うすくこくこほへる藤の花がくりオブラードこそやらはましけれ
ひたものにたへがたければ藤の花花つみにつゝわが恋ふるなり
したしかる人みなとほしひえびえと夕さく藤はほのかなるかも
はつ夏の風をゆかみし窓かけをひけばかちつる藤の垂り花
藤の花ゆりゆるゝむたほそぼそに香こそとひ来れ物思へとふごと
のみすてしコップの水にほのかなる藤のむらさきちれりけるかも
心ぐし藤の垂り花たまさぐりたまさぐりつゝもの思ひにけれ
床ぬちに汗を流してわがあれば額をなづる藤の花かも
熱いでてやゝ汗ばめるわが肌をかいなづる風は藤のした風
うつゝなく眼をほそむれば藤の花睫毛のひまにさゆらげるかも
さきのこる鉢の藤はも夕かけてほの白みたる鉢の藤はも
やゝ疼む注射のあとをさすりつつわがひとり見る藤の花房
しくしくと注射の針のわが肌を刺すがに来るかなしみもあれ
日和雨(ひなたあめ)ふりやまなくにしくしくと注射のあとの痛みやまずも
日和雨しくしくふりて濡緑の藤に光とかなしきものか
きらゝかに日和雨ふる濡緑の藤はいつしかうなだれてけり
熱臭き小床ゆ出でて濡緑の藤の虫とる午のつれづれ
あまたたび文読むするすみむきむきにこけんあれかしむべなるぞやも
灯ともせば藤の垂り花ひそひそとNOTE-BOOKに影おとしけり
日かげと灯(ほ)かげとさして藤の影敷布(シート)にさすはあはれなるかも
わが友はいかにかあらむ入沢の池の藤浪みつつかあらむ
春日野の藤の花さき春日野の松の葉もえて夏づきにけむ
すくよかにあが友ありぬ此日頃あがいたつきは未怠らず
むらさきの藤の散り散れどこの日頃わがいたつきは未怠らず
豚じもの父は寝茣蓙にはらばひて都をどりの画はがき見たり
打日さす都踊りの絵はがきをあがながむれば祇園ししぬばゆ
打日さす都大路の遅桜誰が木履ゆちりそめにけむ
しずたまき数にもあらぬ銀流しわきまへしるは例なるべしや
[大正四年五月十三日 恒藤恭宛書簡]
名画で一言
「ブラジリアン?」