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芥川龍之介 「憫れむべき人間」

前に大きな陥穽があつて、僕の通る道が唯一すぢ其陥穽にどうしてもおちなくてはならなぬやうについてゐたとしたら、どんなだらう。すべての力もぬけてしまふぢやアないか。病躯を抱いて痛飲する尾城の心もちになつて見れば、随分気の毒なものだと思ふ。しかし僕自身もこの憫れむべき人間ぢやアないか。

[明治四十四年山本喜誉司宛書簡]

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