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芥川龍之介の『僻見』が読めない
浅香三四郎
浅香三四郎とは芥川のペンネームの一つである。淺香三四郞龍雄は一刀流の達人で加賀藩に仕えた小姓である。
淺香三四郞は加賀藩の士であつたが、御小將役を命ぜられた後、同僚の爲にすり立てられ、遂に無實の罪を得て食祿を沒收せらるゝに至つたので、劍術の道場を開いて生活のたつきとして居た。
石川県図書館協会 編||日置謙 校訂石川県図書館協会 1935年
講談本の登場人物のような名前だなと思ったら、本当に講談本の主人公だった。
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芥川は帝大時代「三四郎とは話さない」と田舎者を嫌っていた。そこからすると妙なペンネームである。そもそも小川三四郎という名前は石川三四郎由来ではないかと私は思っているが、小川三四郎は小宮豊隆がモデルとされているのでややこしい。まったくらしくないペンネームだ。
一つ気になるのは加賀藩というところ。どういうわけか芥川は加賀に因縁づいた話をいくつも書いている。『煙管』『水の三日』『糸女覚書き』『るしへる』『三右衛門の罪』『一人の無名作家』……。
ただそれだけ。
魯の霊光
「余甫めて冠して、江戸に東遊し、途に阪府を経、木世粛(即ち巽斎である。)を訪はんと欲す。偶々人あり、余を拉らつして、将に天王寺の浮屠に登らんとす。曰、豊聡耳王の創むる所にして、年を閲すること既に一千余、唯魯の霊光の巍然として独り存するのみならずと。余肯きかず。遂に世粛を見る。明年西帰し、再び到れば、則ち世粛已に没し、浮屠も亦また梵滅せり。」
魯の霊光の註解に未詳とある。
魯靈光、魯靈光は魯の靈光殿のことて。他の立派な宮殿の、こはれてしまつた後に、獨り存してゐた。それで、こゝには立派な人々の中の生存者に喩へたのである。
豊田八十代 著学海指針社 1911年
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高等科で教わるらしい。
魯の靈光·····支那前漢の景公といふ天皇の子恭王餘といふ人が靈光殿といふ宮室を建てられた、其後漢が衰へ他の宮殿皆こはれたのに、此の靈光殿ばかりは、元のまゝ……。
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試験に出されそうな書き方がされている。
![](https://assets.st-note.com/img/1704355729768-7poAcGcHli.png)
漢文をやっていると出くわしそうである。
もだしがたき
昭和四十六年版筑摩書房の「芥川龍之介全集」で「もだしがたき」に註が付いていて、
肯定するわけにはいかない
とある。
もだ・す【黙す・黙止す】
〔自他サ変〕
(四段にも活用)
①だまっている。万葉集16「恥を忍び恥を―・して事もなく」。徒然草「世の人あひあふ時しばらくも―・することなし。必ずことばあり」
②(多く「―・しがたい」の形で)ほうって置く。そのままにして構わないで置く。徒然草「世俗の―・しがたきに従ひてこれを必ずとせば」。「君命―・しがたし」
方向性は同じだが、これは普通に「黙っていられない」でいいのではないかと簡単に書こうとしたらおかしなことになった。昭和四十六年版筑摩書房の「芥川龍之介全集」では「僻見」の三章目に入っている「大久保湖州」が
「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店、1996年版では「僻見」に入れられていないのだ。
吉田精一は大久保湖州について「東京専門校出」としている。「学」を抜くな。
ちなみに青空文庫版の「大久保湖州」では「もだし難き」と閉じている。どちらが正解なのか?
もれもだしがたいわ。
点介
「余が嗜好の事専ら奇書にあり。名物多識の学、其他書画碑帖の事、余微力と雖も数年来百費を省き収る所書籍に不足なし。過分と云ふべし。其の外収蔵の物、本邦古人書画、近代儒家文人詩文、唐山真蹟書画、本邦諸国地図、唐山蛮方地図、草木金石珠玉点介鳥獣、古銭古器物、唐山器物、蛮方異産の類ありと雖も、皆考索の用とす。他の艶飾の比にあらず。」
吉田精一は「点介」に註をつけて、
介は甲殻ある虫。小虫か。
としている。いや「介」は貝殻、または貝のことで、虫の意味はない。
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これな、古い絵に「草木金石珠玉蟲魚介鳥獣」という題のものがあって、それを芥川が「草木金石珠玉点介鳥獣」と写し間違えたんとちゃう?
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つまり「介」はあくまで「魚介」やねん。「介」は貝やねん。
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自分の解らないところを想像で補おうとするのは仕方のないこと。しかしまず調べることが必要だ。そうでないと本来ない意味を捏造してしまい、あほな子がそれを真似する。それ、一番恥ずかしいことやで。「点介は小さい虫のこと。これ豆な」といきり倒してしまわないように。
よい子のみんなは吉田精一みたいにならないように、私の本を買おう。