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大粒な霰にあひぬ鉢叩 夏目漱石の俳句をどう読むか113
大粒な霰にあひぬうつの山
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大粒な霰ふるなり薄氷
大粒の霰降るなり石畳
宇津の山で大粒の霰に降られたよ、という程度の句意であろう。
しかし大粒の霰はもう雹である。
大粒の霰は雹なりうつの山
霰に打たれたと「うつ」がかかっているのかなあ?
十月のしぐれて文も参らせず
解説によるとこの句の署名は「瀬石」だそうだ。
うむむ。
これは「夏目漱石はいつから夏目漱石なのか」という問題に関するOパーツか?
明治二十三年、秋風落日舎主人(正岡子規)は夏目金之助に漢詩を送ったとされている。それが、
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このままなら、夏目金之助は明治二十三年から既に夏目漱石なのである。
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秋風落日舎主人は明治十一年から漢詩を書いていたことになる。
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この「銀世界」という小説に、赤インキのペンの書き込みがあり「夏目漱石」ということなので、漱石は明治二十三年から漱石だったことになる筈。
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これが明治二十九年の記事なので、どうしても「瀬石」は邪魔になる。
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しかしまあ句そのものは「十月になって時雨て来たので手紙も来なくなったよ」という程度の意味か。「養病在郷里松山」と書かれてしまう漱石は心の病、さみしがり病か。
いそがしや霰ふる夜の鉢叩
解説に「鉢叩は空也念仏をして歩く半俗の僧」とある。コトバンクには、
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こんな風にあって、特に空也念仏とは書かれていない。ウィキペディアには空也がこのスタイルの始祖だと書かれている。
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半俗というのはこういうニュアンスの事でもあろうか。
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つまりは鉦打ち鉢叩きの徒で、所謂河原者·坂の者·散所の者と云はれた非人法師は、皆是れであります。
鉢叩きといふのも、やはりハチが瓢を叩いて念佛を申すから、呼ばれた名でありませう。山陰道筋では後までもハチヤといふ一部族がありましたが、上方でももとは御坊のことをハチヤとも云つたさうです。
所謂鉢叩きです。瓢簞を叩いて鉢叩きとは妙ですが、古くは單に「叩き」と云ひ、それが所謂「ハチ」土師であるので、ハチ叩きと云つたものかと思はれます。
歴史上より見たる差別撤廃問題
喜田貞吉 著中央社会事業協会地方改善部 1924年
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どうも鉢は夜に叩くものらしい。
ええと、
いそがしや霰ふる夜の鉢叩
ということは「霰が降る夜に鉢叩きがやってきてちんちんかんかんやかましくていそがしいという」そんな感じの句だな。
いやいやいやいや。
まてまてまてまて。
どうも違うぞ。
大粒な霰にあひぬうつの山
いそがしや霰ふる夜の鉢叩
これはどうもあやしいぞ。
これもしかして……。
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いそがしや足袋売に逢うつの山
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いそがしや足袋売に逢ふうつの山
この句に絡めてない?
たまたま?
大粒な霰にあひぬうつの山
いそがしや霰ふる夜の鉢叩
いそがしや足袋売に逢ふうつの山
じゃ余った霰と鉢はどこへ行ったかというと?
おいおい。
みんなちなむなあ。
[余談]
本当の天才というのはやりっぱなしで、「もしかしたら誰にも理解されないかもしれない」などとはこれっぽっちも考えないようなところがあるのではないか。
それに対して普通のサラリーマン評論家やサラリーマン編集者は、「もしかしたら自分は何かを見落としていないだろうか」という不安を一切持たないという無意味なタフさに支えられているような気がしてくる。
ここに文学は生まれない。
生まれるはずもない。
今、ここ以外に文学がある?
いや、真面目な話。
どう?
ある?
あるの?
そりゃどうもすんずれいしますた。