論して白牡丹を以て貢せよ
あの牡丹の紋つけたのが柏莚ぢや
牡丹切つて阿嬌の罪をゆるされし
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魚の目を箸でつつくや冴え返る
後でや高尾太夫も冴え返る
二階より簪落として冴え返る
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春寒やお関所破り女なる
新道は石ころばかり春寒き
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人相書きに曰蝙蝠の入墨あり
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銀漢の瀬音聞ゆる夜もあらむ
[大正六年八月二十九日 恒藤恭宛]
※ネットでは、
論して白牡丹を以て貢せよ
この句が、
論して曰く牡丹を以て貢せよ
とされているものが確認できるが、昭和四十六年筑摩書房『芥川龍之介全集』では「白」である。
つまり「白」と「曰」では全く意味が異なる。
この句をそのままグーグル検索すると「検索条件と十分に一致する結果が見つかりません。」と表示されることから、この句はほぼ全宇宙に無視されているものと考えられる。
いずれ詳しく見ていく機会もあろうが、まずは資料的に少しだけ整理しておく。
久々の恒藤宛の俳句でまた破調が甚だしい。吉田精一は、
……と注を付けている。しかし「冴え返る 余寒きびしきさま。」では説明になってないだろう。寒いうんぬんを詠んでいるわけではないのだ。少しは句の中身を考えて注をつけてはどうなのだ。
また、
とあり、二代目市川団十郎の俳名の誤りではないか。
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999431_po_130.pdf?contentNo=1
この『大菩薩峠』は幕末の話なので、二代目では少し遠いようだが、五代目でもあるまい。
高尾太夫に関しても「後ろ手」になるところの説明がない。六代目かと思えるがよく分からない。関所破りで考えると三代目かなとも思えるところ。
むしろこんなことがわからなくなっているのではなかろうか。
二階より簪落としても、
歌舞伎なのか落語なのか判断が付かない。
春寒やお関所破り女なる
この句は「関所破りは磔になる」ので寒いのだ。
なお、
銀漢の瀬音聞ゆる夜もあらむ
の句に関しては同日付佐野慶造、佐野花子宛の文に「即興」として添えられていることから、この句のみが八月二十九日の句と考えられる。