朗読・二葉亭四迷『浮雲』②第一編　第一回

ほぼ週一ペースで日本の著作権切れの作品を朗読しています。

前回は『浮雲』作者である二葉亭四迷のはしがきと、そのお師匠さまである坪内逍遥しょうよう(春の屋主人)の序文を読みました。

今回は、二葉亭四迷の『浮雲』②。
いよいよ本編の始まりです！

【朗読】

stand.fm

BGM: MusMus

【本文】

本文は長すぎるので今回は全部は載せませんが、冒頭が物語の背景部分となるのでそこだけ。

千早振ちはやふる神無月かみなづきももはや跡二日ふつかの余波なごりとなッた二十八日の午後三時頃に、神田見附かんだみつけの内より、塗渡とわたる蟻あり、散る蜘蛛くもの子とうようよぞよぞよ沸出わきいでて来るのは、孰いずれも顋おとがいいを気にし給たまう方々。しかし熟々つらつら見て篤とくと点撿てんけんすると、これにも種々さまざま種類のあるもので、まず髭から書立てれば、口髭、頬髯ほおひげ、顋あごの鬚、暴やけに興起おやした拿破崙髭ナポレオンひげに、狆チンの口めいた比斯馬克髭ビスマルクひげ、そのほか矮鶏髭ちゃぼひげ、貉髭むじなひげ、ありやなしやの幻の髭と、濃くも淡うすくもいろいろに生分はえわかる。髭に続いて差ちがいのあるのは服飾みなり。白木屋しろきや仕込みの黒物くろいものずくめには仏蘭西フランス皮の靴くつの配偶めおとはありうち、これを召す方様かたさまの鼻毛は延びて蜻蛉とんぼをも釣るべしという。これより降くだっては、背皺せじわよると枕詞まくらことばの付く「スコッチ」の背広にゴリゴリするほどの牛の毛皮靴、そこで踵かかとにお飾を絶たやさぬところから泥に尾を曳く亀甲洋袴かめのこズボン、いずれも釣つるしんぼうの苦患くげんを今に脱せぬ貌付かおつき。デモ持主は得意なもので、髭あり服あり我また奚なにをか覔もとめんと済した顔色がんしょくで、火をくれた木頭もくずと反身そっくりかえッてお帰り遊ばす、イヤお羨しいことだ。その後あとより続いて出てお出でなさるは孰いずれも胡麻塩ごましお頭、弓と曲げても張の弱い腰に無残や空から弁当を振垂ぶらさげてヨタヨタものでお帰りなさる。さては老朽してもさすがはまだ職に堪えるものか、しかし日本服でも勤められるお手軽なお身の上、さりとはまたお気の毒な。

青空文庫・二葉亭四迷『浮雲』より

この先、活字で全部読んでみたい方は青空文庫さんや本屋さんでどうぞ！

【語彙】

顋おとがい: あご
貉むじな: 主にアナグマ、地域によってはタヌキを指す
これより降くだっては: これより(一段格が)下って
靴の配偶めおとはありうち: 靴を合わせることはよくあること
釣るしんぼうの苦患くげん: 既製品の悩み
日本服: 和服

半鐘はんしょうなんとやら: 半鐘は火の見櫓やぐらの鐘かねのことで、半鐘泥棒のことを指す。背の高い位置にある半鐘を盗めるほど背の高い人を嘲る言葉。
捗はかの往く: 捗る
免を喰う: 仕事をクビになる
炭団たどん: 炭の粉を団子状にした燃料

【解説】

〇千早振ちはやふる神無月ももはや跡二日の余波なごりとなッた二十八日の:
ちはやふるは【神】の枕詞、神無月は10月。
「10月も28日の時点であと残り2日となった」ということなんですが。。
あれ。
現在の暦で10月は31までありますよね。
旧暦10月は今でいえばだいたい11月です。
調べてみたら旧暦の10月は年によって29日までと30日までがあるんだそうです。
この年は30日まであったということですね。

冒頭は神無月の終り、道行く人々のヒゲの描写から始まりました。
斬新！
続いて身なりとそれを着る方様かたさまの
松 (白木屋仕込みの黒者ずくめ、でも鼻毛はごっつい出てる)
竹 (背皺寄るスコッチ)
梅 (日本服)
を調子良く実況してくれてます。

なるほど。
というか、何このノリ。
鼻毛でトンボ釣るくだり必要だった？笑

【はしがき】で
「言文一途(言文一致)をやってみたい！」
としていた四迷ですが、言文一致ってこういう落語の台本みたいな感じなの？？？
と思ったら、「言文一致、俺がやってやる！」と息巻いたけどどうしたら良いか分からなくて落語家三遊亭圓朝さんの速記本とやらを参考にしたとか。

道行く人々の描写の次は二人の男について描かれます。
痩せたそこそこ背が高い男と、中肉中背のこせこせした顔立ちの男。
第一回では誰の名前も明かされていませんが、どうやら背の高い男の方がこの物語の中心人物らしい。。

語り手は背の高い男の後を追って物語を続けます。
「一所いっしょに這入ッて見よう！」
って語り手、ちょっと前に出過ぎじゃない？笑

次に登場するのは18、9くらいの婦人。
チョンボリとした摘つまみッ鼻ぱな、日の丸の紋を染抜いたムックリとした頬、ズングリ、ムックリの生理学上の美人って。。
余あんまりじゃア有りませんか！四迷さん！！
トパクサ階段上ったり、お化粧ヘタクタつけたり、擬音が可愛いけども。
私も積極的に使いたい。

二葉亭四迷先生によるノリノリな始まりに、私もワクトキが止まりません。

ということで、続きはまた来週。
良かったらまたお付き合いください。