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10日間の隔離生活を経て、気づいたら2人のインフルエンサーと同居している
6月はプライド月間。
私の住んでいるメキシコでは、街中でレインボーフラッグがいたるところに掲げられる。
そんなレインボーに色づきだす街の様子を見て思い出した。
あれは、去年の6月。
ことは、私がなんと2度目の例のウイルスに感染している間に起こった。
去年は、まだあのウイルスが大流行していた。つい3か月前に感染したばかりなのに、あっという間に2回目の感染をしてまった私は、隔離生活を余儀なくされた。
なんとか、ウイルスとの闘いに勝利し、約10日間の隔離生活を終えて、再びに外の世界に出てみると、私はインフルエンサーと同居していることに気づいた。それも1人でなくて2人の虹色のインフルエンサーと。
クレイジールーミーとの暮らし
私はメキシコでシェアハウスをしている。
このシェアハウスに引っ越した当初は、ゲイのお兄さん二人と私の三人で暮らしていた。
クレイジーなルームメイト(自称俳優30代後半イケメン)ともう一人のまともなルームメイト(弁護士20代後半イケメン)との3人暮らし。
私がウイルスに感染する1か月ほど前、弁護士のルームメイトが引っ越してこの家を出て行った。
あまりにも突然出て行ったので、詳しい理由は分からなかったけど弁護士ルーミーは真面目そうな人だったので、奇行が止まらないもう一人のクレイジールーミーに嫌気がさしたのかもしれない。
今はこの生活をネタにしているものの、次は我が身!と身構える私をよそに、クレイジールーミーは新しいルームメイトを探し始めた。
私がウイルスに感染する1週間ぐらい前、クレイジールーミーに
来週から新しいルームメイトが増えるからね。と告げられた。
どんな人?と尋ねると、
「歌手でハンサム。」
ん、情報それだけ?
真面目な弁護士とうって変わって、今度は君と同じ属性の人なの、、?
まあ本人が来るのを楽しみにしておこう。と思っていたところ、私はウイルスに感染し、外の世界から隔離された。
厳格な隔離とルーミーサービス
もちろん、病人の身、特にこのウイルスで人と暮らすのは気を遣う。
接触を避けて、部屋に閉じこもるしかない。
クレイジールーミーは優しくて、食事を部屋の前まで運んでくれる代わりに、私はトイレに行くとき以外、部屋から出ることを禁じられた。
「大丈夫、ご飯は部屋の前まで運んであげるから。高級ホテルのルームーサービスだよ。」
とのこと。
もちろん、めちゃくちゃありがたい、ありがたいんだけど、私は気まぐれな君がいつルーミーサービスごっこに飽きて、食料供給を止められるか気が気じゃない!!!!!
どこにいても日本人の私は、お粥が食べたくてしかたなかったけど、ルーミーサービスのメニューにもちろんお粥はなく、、、、。
「アイスが食べたい!」
とリクエストしてみても、、、
「ダメ、病人がそんなもの食べちゃだめ!」
なんでそういうとこだけ厳しいんや。
泣く泣くアイスを諦めたその日の晩御飯に運ばれてきたのはタコスだった。
待って。タコスは良くてアイスはだめなん?もう私にはその感覚が分からん。
病人の身分で有難すぎるほど助けてもらってるのだけど、
地味なフラストレーションがたまる生活を強いられていた。
(振り返ると本当にありがたい、文句言ってごめん。)
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そんな隔離生活が数日続くうち、新ルームメイトが引っ越してきた。
新ルーミーの入居
お熱が下がらず、浅い眠りを繰り返していたら、部屋の外から知らない声が聞こえる。出たな、これが新入りルーミーだな。
トイレに行く際に
ソーシャルディスタンスを、、、、と距離をとっていたら、
「大丈夫、もう既に感染してるから、心配ないよ。」
と新入りルーミーが話しているのが聞こえた。
そうですか、私は感染するの2回目です。
「油断大敵」という言葉を入居祝いに贈ります。
そしてウイルスとの闘いに終わりが見えたころ、私は我が家にいるインフルエンサーの存在に気付くことになる。
インフルエンサー①虹色のポケモンマスター
少し私の体調が回復してきて、ちゃんと眼鏡をかけて見た新入りルーミーは、確かにイケメンだった。
そしてドラゴンボールの孫悟空のTシャツを着ている。お?
君はオタクか?日本が好きなのか?
ソーシャルディスタンス越しに話してみると、ドラゴンボールだけじゃなかった。
まだ完治しきっていない、私に、彼がどれだけ日本が好きであるかということ、日本でポケモンセンターに行って、グッズを爆買いしたこと、そのポケモンのぬいぐるみやグッズを全部、この家に持ってきていることを披露してくれた。
おお、、、日本好きなのは嬉しいよ、ありがとう、、でも今じゃない、、、君はポケモンマスターなるのかもしれんが、わたしはまずこのウイルスとの闘いに勝たんと、ジムリーダーにすらなれんのよ。
日本に行った時の様子をアップしているインスタの写真を見せてくれた。
そして私は気づく。
彼のインスタのフォローワーが4万人いることを。
彼がなにをしているのかよく分からんが、どうやら、ちょっとした歌手?インフルエンサーらしい。
またやべえルームメイトが増えたよ、、、。
インフルエンサー②虹色のカーボーイ
私が寝込んでいる間に、我が家にもとからいたクレイジールーミーにとっても大事なイベントがあった。
世界のプライド月間の6月、ダイバーシティ推進先進都市のメキシコシティでは、プライドパレードが毎年開催される。
ルーミーはここ数年、謎のカーボーイの集団で、馬に乗ってパレードに参加していて、この年も参加するようだった。
パレードの朝、珍しく朝から家が騒がしい。
割と元気になってきた私がトイレに行くために部屋を出ると、ルーミーがなにやら布で工作をしている。
「はさみ持ってる?」
お。昨日まで、ウイルス感染者の私が使ったものを、わざとらしいぐらい消毒してたよね?病人の私のはさみでええんか?
とりあえず、一番すぐ見つかった、私の前髪を切るための散髪ばさみを貸してあげた。
「ちょっと切るの手伝ってくれる?」
お。昨日まで、病人扱いして、部屋から出ることを許してもらえなかった私が、手伝ってええんか?!
時間がない!といつも通り、慌てながら衣装に何かを工作している。
カーボーイとしてパレードに出陣する、目立ちたがりのルーミーの作戦はこうだった。
衣装であるカーボーイのワイシャツの背中に、自分のInstagramのアカウント名をマジックで書いた布を貼っつけて、見た人がフォローできるように、というものだった。
誰があんたのそんな手書きのやつ見て、フォローすんねん。
心の中では鼻で笑いながら、完成したお手製の衣装を身にまとって出かけるルーミーを見送った。
言っとくけど、その背中の布切ったの、私の前髪切るはさみね。
うちのお父さんが2歳の私の髪の毛を散髪してる時から、我が家に伝わる25年もののはさみね。
まさか、お父さんも我が子の髪を切っていたはさみが、海を越えて地球の裏側まで行くとは想像もしなかっただろう。
そして、そのはさみが、メキシコでインフルエンサーを生み出す一助となるとは。
お手製衣装の効果はいかに。
次の日、彼のインスタにパレードの様子の写真やビデオがあがっている。
珍しく自撮りだけでなく、人が撮影した動画もたくさんあった。
なんと。散髪用のはさみで切った、背中の布が奇跡的に多くの人の目に留まり、カーボーイ・ルーミーを沿道から取った動画が、世の中に放たれたようで。
確かにその動画で、カーボーイの恰好をして、堂々と馬にまたがるルーミーは、なんでか分からんが、すごくすごく魅力的だった。
イケメンだからとか、カーボーイの服が似合っているとかじゃなくて、ついディズニーランドでミッキーに手を振りたくなってしまう、そんな感情。これがスターなのか、、、、?
そして、その動画は、バズった。
どうやら、ミッキーに手を振りたくなったのは私だけでなかったようで、その動画は数日間バズって、再生回数と彼のアカウントのフォロワー数がとんでもない増加率を見せた。
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隔離生活でほかにすることもない私は、ルーミーのフォロワー数を一日数回チェックするのが日課になった。
1日3回薬を飲む。同時に1日3回、フォロワー数チェック!
2,500人前後だったフォロワーが数日かけて、5,000人、6,000人、7,000人と増えていく。家でなんの楽しみもなかった私は、ただこの数字が増えていくことが、嬉しくて楽しかった。(今考えるとだいぶ気を病んでいる、、)
フォロワーが1万人を超えてからは、あっという間だった。
これまでの伸び率とは比べ物にならない勢いで、ほんの数日間で、彼のフォロワーは5万人を超えた。
インスタのアルゴリズムどうなってるんでしょうか。
こうして、私がウイルスと戦っている間に、我が家にもう一人のインフルエンサーが誕生していた。
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我が家の新インフルエンサー・カーボーイに、あんたのフォロワー数やばいやん!と話したら、
通知とメッセージが止まらないらしく、彼に届いているメッセージの数々を見せてくれた。
「かっこいい!」「素敵!」「どこにいるの?」「ダーリン♡」
怖い。
本人は
「へへ、どうやら、インフルエンサーになったみたい」
とまんざらでもなさそう。
どうか調子に乗らず、そのインフルエンスを良い方向に使ってください。
インフルエンサーとの生活。
そんなこんなで、二人のインフルエンサーと暮らし始めてあっという間に1年がたった。
我が家のインフルエンサーたちは、それぞれ地道にご活躍されている模様。
特にめちゃくちゃ有名になるわけでも、フォロワーが爆増するわけでもないけど、なんとかフォロワーの数を維持しながら、地道に、日々、俳優やら歌手やらというそれぞれの活動に取り組んでいる。
インフルエンサーってキラキラした生活を送ってそうというイメージに反して、そんなに華やかでもなく、ささやかな活動をしながら毎日を過ごしてる彼ら。
たまに本当に何もしてないように見えて、こいつら、ただ毎日ダラダラしてるだけじゃんね?働けオッサン達!とキレたくなることもある。
ただ、インスタ用の動画の撮影は、頻繁に行っている。
うるさいし、むしろ私が、撮影中に音を立てたら怒られたりする。
なんでよ。
けど、そんなプチ有名人としての活動を地道に頑張ってる、君たちのこと、私は近くで応援してる。、、、つもり。
いつか超有名になったら、でかい家借りて、私も一緒に住まわせてね。
それまでしょうがないから、もうちょっとだけ、
うるさい撮影も我慢してやろう。