三種類目の彼女
女友達には、三種類いると思う。
第一に自分を包み込んでくれる人、第二に自分とぴったり価値観が合う人、そして第三に、コンプレックスを刺激する人。
三種類目、コンプレックス刺激系友人のことを書こうと思う。
その子とは大学の音楽サークルで知り合った。
今まで私の周りにいなかったタイプで、おしゃれに気をつかう、美人で気の強そうな子。苦手な感じだった。
最初、その子はサークルの練習にあまり来なかった。バイトだとか、友達と遊ぶだとか。
私はほぼ毎日、真面目に通って練習していたのに、それでも、最後に重用されるのは彼女だった。
だるそうにしているのに、彼女はどんなに難しい曲も、さらっと弾ける。それが悔しいことにかっこよかった。
私はそのころ、おしゃれじゃなくて、真面目で面白みのないことがコンプレックスだった。
無地のニットにジーパンをはき、眉の整え方も適当なまま、何色と呼べば適当なのか分からない口紅を申し訳程度につけていた。色気なんて出そうと思ったこともない。
会話だってなにか一言発するのに精いっぱいで、誰かを笑わせるなんてできなかった。
そのコンプレックスを、全て彼女は刺激していく。
ひょう柄ニットに黒のミニスカート。薄めの眉に、赤く艶やかな口紅。その口紅を直す仕草も小悪魔的な色気があった。
おまけに、状況に応じた気のきいた会話ができて、いつも周りでは笑いが絶えなくて、フランクな態度が男女ともに人気だった。
こんな風に正反対で、私にないものをいくつも持つ彼女に、いつしか私は憧れるようになった。
彼女みたいなミニスカートもはいてみた。でも似合わない。
その子の彼氏が、私のミニスカート姿を見て笑ったことは、正直今でも根に持っている。
私たちのサークルは、結構活発な団体だったので、大学生活の半分以上をここで過ごした。
それだけ長く濃密な時間を一緒に過ごしたはずなのに、私たちは二人切りで一度も話したことがない。
避けていたわけでもなく、仲が悪いわけでもなかったけど、やっぱりタイプが違いすぎたんだと思う。
最後まで二人の時間を持たないまま卒業を迎え、別の子の提案で色紙にメッセージを書き合って、みんなで交換しあうことになった。
彼女には、なんと書いたかよく覚えていない。今までありがとう、とか誰にでも言えるようなことを書いた気がする。
せーの、で渡し合った色紙の右隅。
紫色のペンで、彼女から私あてのメッセージは、さらりと書きつけられていた。
「おっとりして、一生懸命で、やさしくて。私にはないものをいっぱい持っていて、憧れの存在だったよ」
“憧れの存在”。
私の憧れた人は、私に憧れてくれていた。
もちろん、お世辞かもしれない。
それでも、彼女からの褒め言葉は、素直にうれしかった。
彼女と反対のところが、私のいいところなんだって、その色紙の一言で初めて気がついた。
さらっと出来るんじゃなくて、真面目に練習する私。
ミニスカートじゃなくて、ジーパンが似合う私。
赤い口紅じゃなくて、ぼんやりした口紅が似合う私。
もしかしたら……。
こう言うのもおこがましいけれど、彼女も、私からは見えない反対側で、私にコンプレックスを刺激されていたのかな。
私たちは四年間、反対側に座ってお互いじっと眺めていて、無いものねだりをしていたのかもしれない。
三種類目の女友達。
私の中で、そのいちばんは、あの小悪魔な彼女。
彼女にとっての三種類目の女友達に、私も入っていればいいけど。
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*以前も書いたことのある友達とのこと。
She isさんの公募VOICE「おんなともだち」のために書き直しました。
ちなみに、今月の週末のどこか、この友達に再会します☺
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