冬の王女 part3
*前回までのあらすじ*
冬の国の王女は、人間界に冬を運んで妖精界に帰って来た。そこに、春の国の妖精である少女が働きたいと訪ねてくる。
春の妖精に頼める仕事もないので、やけくそになった王女は、行き詰っているシーズンフェスティバルの催しを考えるため、サンタクロースへの相談に同行させることにした。
*****
大きな家の前で、そりがとまった。丸太を積み重ねたその大きな家から、赤い服に身をつつみ白いひげをたたえたおじいさんが出てきた。
「おお。冬の妖精の王女。よう来たのぉ」
「お久しぶりです、サンタクロースさん」
王女たちは妖精なので、サンタクロースよりもかなり小さい。
王女は差し伸べられた、サンタクロースの手の平の上にとまり、お辞儀をした。
「おや、そちらは…」
サンタの目の前に、ここ冬の国では珍しい、黄緑色の服を着た妖精が飛んできた。
「私、春の妖精のリーチェといいます。今日から冬のお城で働いています」
ふぉふぉふぉ!とサンタは驚きながら笑うと、リーチェにも手を差し伸べていった。
「さぁ、二人の妖精さんよ。我が家へようこそ、暖かいお茶をごちそうしよう」
かちゃり。と、人形用のミニチュアカップを置いて、王女はため息をついた。
サンタクロースと、シーズンフェスティバルについて話し合いをしてみたが、ちっとも良いアイデアは浮かばない。
「うーん、催しものを考えるというのは、難しいのぉ」
「そうですね…ちょっと、リーチェったら勝手に遊ばないの」
話し合いの間、リーチェはサンタクロースの家に興味津々で飛び回っていた。
サンタの家のものはすべてが人間サイズで大きくて、見るものがすべて珍しかった。
「わぁ。なんですかこれ?」
リーチェが指さすものを見て、サンタは笑った。
「それは、ルーペじゃよ。ものを大きく見るためのものじゃ。最近小さい文字が見えにくくてのぉ」
それを聞いてリーチェは、ルーペを抱えて窓際に持って行った。これをかざして外がどんな風に見えるか試してみたかったのだ。
「はぁ。春の妖精が、冬の国で働くなんて、やっぱりムリなのかしら」
自由なリーチェのふるまいを見て、王女はため息をついた。このあと城に帰ったら、春の国に帰ってもらうしかないのかも。そりで雪に感動していたリーチェを見て、少し心を動かされた分、なんだか残念に思った。
「わぁ!見てください!これ!」
そのときリーチェが急にさけんだ。何事かとサンタと王女が窓際まで行くと、
「ルーペの中を見て。きれい…」
そこには、窓際に積もった雪が大きく映っていた。その雪は、きれいな模様になっている。
雪の結晶。
すべてが少しずつ違う模様で、同じものはない。
均等に細かく、レース編みのように美しい網目で、
キラキラと夕日を映し光っていた。
「雪って、こんなにきれいだったんですね…」
リーチェがうっとりする横で、王女は何かを思いついた。
「これだわ!!」
シーズンフェスティバル当日。
次は、冬の国の催しがはじまる番だ。
「みんな、行くわよ」
王女の掛け声で、冬運び部隊が飛び立つ。
観客の前には、大きな黒い布が張られていて、その前には人間サイズのルーペが何個かおいてある。
何人かの他国の妖精たちは、何が起きるのかとルーペをのぞきこんでいた。
冬運び部隊が、雪をふらせはじめる。その中には、あのリーチェも混ざっていた。
「なんだ、ただの雪か」他国の観客たちがざわざわとする中、
「模様が!」ルーペをのぞいていた妖精たちが驚いて声を上げた。
「わぁ…」全員がルーペをのぞきこみ、観客たちはゆっくりと、冬の国の催しにひき込まれていく。
「雪というものは、こんなにきれいだったのか…」誰かが信じられないというようにつぶやいた。
王女とリーチェは雪を降らせ飛び交いながら、目を合わせて笑った。
「春の妖精のあなたが、冬の国の私たちが当たり前にして忘れていた、雪の美しさを教えてくれたのね」
銀色の王女はふふっと笑った。
「次の冬の王女は…もしかするとあなたかもしれないわね」
銀と白の冬の国に、黄緑色の王女が誕生するのは、まだまだ先のお話である。
*おわり*